親御さんの薬が多すぎて心配な方へ — 高齢者の多剤併用 (ポリファーマシー) を「適切に」見直す方法
親御さんの薬が多すぎて心配な方へ — 高齢者の多剤併用 (ポリファーマシー) を「適切に」見直す方法
「実家の親が、いつの間にか1日10種類以上の薬を飲んでいる」「最近ふらつきやもの忘れが増えたのは、薬のせいではないか」「飲み忘れや残薬も多くて、本人に任せきりで本当に大丈夫だろうか」 — そんな不安をきっかけに、この記事にたどり着かれた方が多いのではないでしょうか。
最初にお伝えしたいのは、「薬の種類が多い=悪いこと」とは限らないということです。高齢になれば持病が増え、必要な薬も自然に増えていきます。大切なのは、必要な薬は適切に続け、不要・重複した薬は丁寧に見直すという姿勢です。
この記事では、ご家族目線で「なぜ薬が増えるのか」「何錠から注意したほうがよいのか」「家でできる準備」「かかりつけ医に薬の見直しを相談する流れ」を順を追ってご紹介します。最後に、当院(西新井内科クリニック)での相談の進め方もご案内しています。
高血圧は内科で、整形外科では膝の痛みで湿布と痛み止め、眼科では点眼薬、泌尿器科では頻尿の薬、皮膚科でかゆみ止め… というように、加齢にともなって複数の科を受診すると、それぞれの担当医が自分の領域の薬を出していきます。各医師は他科の処方をすべて把握しているとは限らないため、同じ系統の薬が重複したり、相互作用がチェックされないまま積み重なっていくことがあります。
「最近よく眠れない」と言えば睡眠薬が、「胃が痛い」と言えば胃薬が、「便秘がつらい」と言えば下剤が — 訴えるたびに薬が一つずつ足されていく流れも、よく見られるパターンです。これ自体は不自然なことではありませんが、症状が改善した後も止めるきっかけがないまま、薬だけが残り続けることがあります。
「いつから飲み始めたのか」「なぜこの薬が処方されたのか」が本人も家族も覚えていない、というケースは少なくありません。担当医が変わっていれば、新しい医師にとっても止めるべきか続けるべきか判断しづらく、結果として「とりあえず継続」になりやすいのです。
例えば、高齢になって食事量が減っているのに糖尿病の薬が若い頃のままで低血糖状態になったり、漫然と継続されている薬の中に抗コリン作用を持つもの(一部の睡眠薬や頻尿治療薬など)が含まれていると、副作用によって唾液の分泌が減少し、嚥下機能の低下に拍車をかける原因にもなります。さらに、加齢に伴う肝機能や腎機能の低下により、高齢者は薬を代謝・排泄する能力が落ちています。そのため、若い頃や処方開始時と同じ用量であっても体内に薬が蓄積しやすく副作用が起きやすいという面もあります。
厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」(2018年)では、ポリファーマシーを 「単に服用する薬剤数が多いことではなく、それに関連して薬物有害事象のリスク増加、服薬過誤、服薬アドヒアランス低下等の問題につながる状態」 と定義しています。つまり「多いから悪い」ではなく、「多さに伴う害が出ている、あるいは出る恐れがある」ことが問題なのです。
東京大学病院老年病科の調査では、服用している薬の種類が6種類以上になると薬物有害事象(副作用)の発生頻度が明らかに高くなる ことが報告されています (Kojima T, et al. Geriatr Gerontol Int 2012)。ふらつき・転倒・もの忘れ・食欲低下といった、ご家族が「最近何だかおかしい」と気づくような体調変化の多くが、実は薬と関係していることもあります。
ただし、誤解しないでいただきたいのは 「種類が多い=即危険」ではない という点です。例えば心不全や糖尿病の方では、適切な治療として5〜6種類の薬が必要になることは珍しくありません。本当に問題なのは「中身と組み合わせ」です。
日本老年医学会「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2025」(2025年6月刊)では、高齢者に処方する際に特に慎重さが求められる薬物が28系統 にわたって示されています(2015年版の29系統から、抗血小板薬・H2受容体拮抗薬の2系統が削除され、新たにGLP-1(GIP/GLP-1)受容体作動薬が追加されました)。
ご家族が「これかも」と気づきやすい代表的な系統には、以下のようなものがあります。
| 薬剤系統(主な薬の例) | 注意したい主なリスク |
|---|---|
| ベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬
および抗不安薬 |
転倒・骨折・認知機能低下。長く飲んでいるほど止めにくくなる |
| 三環系抗うつ薬・スルピリド | 認知機能低下・口腔乾燥・便秘・排尿障害・パーキンソン症状 |
| 第一世代の抗ヒスタミン薬
(H1受容体拮抗薬) |
認知機能低下・せん妄・口腔乾燥
(市販の風邪薬・鼻炎薬・睡眠改善薬にも含まれます) |
| 抗精神病薬 (認知症の方への使用) | 手足のふるえ・歩行障害・認知機能低下・脳血管障害 |
| 抗パーキンソン病薬 (抗コリン薬) | 認知機能低下・せん妄・口腔乾燥・便秘 |
| NSAIDs (非ステロイド性抗炎症薬・痛み止め) | 消化管出血・腎機能低下 |
| 過活動膀胱治療薬
(ムスカリン受容体拮抗薬、オキシブチニンなど) |
排尿障害・口腔乾燥・便秘 |
| スルホニル尿素薬
(糖尿病薬の一種) |
低血糖を起こしやすい |
| α遮断薬・一部のβ遮断薬 | 起立性低血圧による転倒、喘息・COPD患者での呼吸器症状の悪化 |
| 利尿薬 (ループ利尿薬・アルドステロン拮抗薬) | 脱水・電解質異常・腎機能低下 |
| ジギタリス (強心薬) | 不整脈・食欲不振・吐き気・視覚障害などのジギタリス中毒 |
| 制吐薬 (メトクロプラミドなど) | 手のふるえ・歩行障害などのパーキンソン症状 |
| 緩下薬 (腎機能低下時の酸化マグネシウム製剤など) | 高マグネシウム血症 |
| 経口ステロイド薬 (慢性安定期COPDなどへの長期投与) | 消化性潰瘍・呼吸不全 |
(参考:日本製薬工業協会「ポリファーマシーに関する研修資材」監修:秋下雅弘 東京都健康長寿医療センター長、厚生労働省検討会資料、健康長寿ネット)
加えて、2025年版で新たに追加された GLP-1(GIP/GLP-1)受容体作動薬 は、近年メディカルダイエット目的でも処方が増えていますが、高齢者では食欲低下・体重減少・脱水などの観点から慎重投与が求められるようになりました。
これらは「絶対に飲んではいけない薬」ではなく、「処方や継続を慎重に判断すべき薬」です。ご家族が自己判断で中止することは絶対に避け、必ず医師にご相談ください。
2025年版の大きなトピックは、「日本版抗コリン薬リスクスケール」が新規収載された ことです。158の薬剤を、抗コリン作用(認知機能低下・便秘・尿閉などを起こしうる作用)の強さで3段階(スコア1〜3)に分類しています。
注目すべきは、この158薬物の中に 市販薬(一般用医薬品)が約20%含まれている 点です。風邪薬・鼻炎薬・かゆみ止め・睡眠改善薬など、ドラッグストアで気軽に買える薬の中にも、抗コリン作用を持つものが少なくありません。「処方薬は問題ないと言われたけれど、市販の風邪薬や鼻炎薬を毎日使っている」という方は、その合計で見直す視点が必要になります。
同じガイドラインには、逆に 「足りていない可能性のある薬物」9系統 も示されています(2015年版の8系統から、DMARDs・ACE阻害薬・ARBの3系統が削除され、吸入LABA、吸入LAMA、PDE5阻害薬、β3受容体作動薬の4系統が新たに追加されています)。
他にも、慢性心不全患者に対するミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、あるいは心不全と慢性腎臓病(CKD)の双方に対して強力な予後改善エビデンスを持つSGLT2阻害薬など、副作用よりも利益の方が上回るとされる新しい薬が続々と出ています。
「薬を減らす」だけが見直しではなく、「必要な薬がきちんと出ているか」もポリファーマシー対策の一部です。
75歳を超えると、腎機能・肝機能・体組成(水分と脂肪のバランス)が変化し、同じ用量でも薬が強く効きやすくなります。若い頃と同じ量で続けている薬が、いま現在も適切とは限らないのです。
ご家族が「最近どうしたんだろう」と感じる変化の中には、薬が影響している可能性のあるものがあります。
厚労省「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」では、ふらつき・転倒の原因薬剤として、降圧薬(中枢性降圧薬・α遮断薬・β遮断薬)、睡眠薬、抗不安薬、抗うつ薬、抗精神病薬、パーキンソン病治療薬、抗ヒスタミン薬などが挙げられています。一度の転倒が骨折につながり、寝たきりになってしまうことは珍しくありません。薬剤の見直しで少しでも防ぐことができたらと思います。
同指針では、記憶障害やせん妄の原因薬剤として、ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬、三環系抗うつ薬、抗ヒスタミン薬、パーキンソン病治療薬、副腎皮質ステロイドなどが指摘されています。「認知症が進んだ」と思っていた症状が、薬を整理したら改善するケースもあります。
非ステロイド性抗炎症薬 (NSAIDs)、緩下剤、抗精神病薬、パーキンソン病治療薬(抗コリン薬)、SSRI、ビスホスホネートなどが食欲低下の原因として挙げられています。便秘は抗うつ薬(三環系)、抗コリン薬、ベンゾジアゼピン系などで増悪することがあります。
胃薬の副作用で便秘になり下剤を追加、下剤の副作用で電解質が乱れて点滴、というように、副作用に対して新しい薬が足されていく連鎖を 「処方カスケード」 と呼びます。最初の一剤を見直せば連鎖全体を解消できることがあります。
これらが複数当てはまる場合は、一度かかりつけ医にご相談されることをおすすめします。
複数の医療機関にかかっている場合、お薬手帳が病院ごと・薬局ごとに分かれていることがよくあります。これを1冊に統合するだけで、医師が処方の全体像を把握できるようになります。お薬手帳アプリを使う場合も、複数アプリの併用ではなく1つに集約することが大切です。
前述の「日本版抗コリン薬リスクスケール」(2025年版)には市販薬も含まれています。風邪薬・鼻炎薬・睡眠改善薬・胃薬・便秘薬・サプリメント・栄養ドリンクなど、処方薬以外もすべて一覧化 してください。家の中の引き出しや棚に眠っている薬も、忘れずに集めましょう。
「処方どおりに飲んでいるはず」が実際とずれていることは多々あります。手元に残っている薬の量を数える(残薬カウント)、飲み忘れが多い時間帯を聞き取る、自己判断で止めてしまった薬がないか確認する — この3つだけでも医師の判断材料が大きく変わります。
すべての薬について「いつから」「なぜ」飲み始めたかを確認し、御本人が理由を把握している薬と理由を答えられない薬で分けてみてください。理由が分からない薬は、見直しの優先候補になりやすい薬です。
ご本人だけでは「最近ふらつきが増えた」「食欲が落ちた」といった変化は十分に伝わらないことがあります。生活を一緒に見ているご家族の同席は、診察の質を大きく上げます。
「薬を減らしたい」と言うと、医師によっては「必要だから出している」と防御的になることがあります。「全体を一度見直したい」「不要な薬があれば整理したい、必要なら続けたい」 という伝え方の方が、建設的な対話につながりやすいです。
長く服用している薬を急に中止すると、離脱症状や原疾患の悪化が起こることがあります。減薬・中止は段階的に進め、その後の体調変化を観察しながら進めるのが原則です。「減らしたら悪化したのでまた戻す」も含めて、医師との継続的な対話が必要になります。
厚労省の指針でも、高齢者総合機能評価(CGA)や多職種協働の必要性が示されています。当院でも、必要があれば連携薬局の薬剤師、専門医療機関と相談しながら進めます。
当院は、総合病院での内科診療、在宅医療、企業の産業医という3つの現場で培われた視点を、お薬の見直しのご相談に活かしています。私自身が無駄な薬を服用するのが嫌というのもあり、「薬を必要最低限に保ち、その人の生活全体を支える」という姿勢で診療にあたっています。
院長(森田知宏)の詳しい経歴は医師紹介ページをご覧ください。
当院は院外処方を基本としており、当院での処方判断に加え、薬局の薬剤師による独立した相互作用・重複チェックが入ります。お薬手帳の一元化 についても、薬局と連携してサポートします。また、オンライン資格確認で複数の医療機関の処方内容も閲覧することができるため、処方の重複などを防ぎやすくなっています。
通院が難しくなった方には、ご自宅や施設にお伺いしての訪問診療を行っています。当院は 老人ホーム併設のクリニック であり、入居者の方には施設まで定期的に伺うことが可能です。在宅・施設のいずれでも 24時間365日対応 の体制を整えています。
初診時の ご家族の同席を歓迎 しています。生活状況や服薬の実態は、ご本人だけでは語りきれない部分があるためです。受診前にお薬手帳の写真をお送りいただける運用も可能です。「親の薬の件で相談したい」と一度お電話いただければ、進め方をご案内します。
すぐに大幅に減らすことは、原疾患の悪化や離脱症状のリスクがあり原則として行いません。まずは現在の処方の意図を整理し、優先度の低い薬から段階的に試験的に減量・中止し、その後の体調を見ながら進めていきます。3〜6か月単位での見直しが現実的です。
「薬を減らす」ではなく、「一度、薬全体を医師と整理してみない?」「いまの体調に合っているか確認してもらおう」という伝え方をおすすめします。ご本人にとっても「減らされる」より「自分のために確認してもらう」方が受け入れやすいものです。
ケースバイケースです。認知症の進行段階、本人と家族の生活上のゴール、副作用の有無によって判断します。専門医と連携しながら検討します。ご家族の自己判断で中止することは避けてください。
はい、可能です。お薬手帳と他院の検査結果(あれば)をお持ちいただければ、現在の処方を全体として確認し、必要に応じて元の処方医・薬剤師とも連絡を取りながら整理を進めます。
自己判断での中止は基本的に避けてください。 一見飲まなくても問題なさそうな薬でも、長期に続けてきた場合は急な中止で離脱症状や原疾患の再燃が起こりうるものがあります。気になる薬は受診時にご相談ください。
はい、訪問診療でも処方の見直しは重要なテーマの一つとして取り組んでいます。通院が難しくなったことをきっかけに、それまで複数の医療機関から出ていた薬を当院で一元的に整理させていただくことも多くあります。
最後にもう一度お伝えしたいのは、ポリファーマシー対策のゴールは「薬を減らすこと」ではなく「薬を最適化すること」 だということです。必要な薬は適切に続け、不要・重複した薬は丁寧に見直す。シンプルですが、ご本人の生活の質を大きく変える可能性のある取り組みです。
「親の薬の量が気になる」「薬の影響かもしれない体調変化がある」と感じられたら、まずは お薬手帳を持って一度ご相談ください。ご家族だけでお越しいただいての事前相談も可能です。
通院が難しい場合は訪問診療もご検討ください(別記事:訪問診療を始めるタイミング・流れ — 公開予定)。
本記事の医学的内容は西新井内科クリニック院長 森田知宏が監修しています。本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診療判断に代わるものではありません。具体的な薬の見直しは必ず担当医にご相談ください。
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