健康診断で貧血を指摘されたら―鉄分を飲む前に知っておきたい原因と検査
健康診断で貧血を指摘されたら―鉄分を飲む前に知っておきたい原因と検査
健康診断の結果表で、「血色素量(ヘモグロビン/Hb)」「赤血球数」「ヘマトクリット」の欄に『要再検査』や『要精密検査』の判定がついていませんでしたか。
「昔から立ちくらみしやすい体質だから」「市販の鉄分サプリメントを飲んでおけば大丈夫だろう」と軽く考えてしまう方は少なくありません。
しかし、貧血はそれ自体が一つの独立した病気というよりも、「体の中で何らかの異常が起きていることを知らせる警告サイン」です。単に鉄分を補うだけでは根本解決にならず、「なぜ血液が減ってしまったのか」という原因を突き止めることが何より重要です。
この記事では、健診でよく見られる貧血の種類、男性や閉経後女性で見逃してはならない病気、「隠れ貧血」の正体、内科での検査の流れについて解説します。
血液中の赤血球に含まれる「ヘモグロビン」は、肺で取り込んだ酸素を全身の細胞や臓器に送り届けるトラックの役割を果たしています。ヘモグロビン濃度が基準を下回ると、全身が酸素不足(酸欠状態)に陥ります。
WHO(世界保健機関)は、貧血の基準を以下のように定義しています。
| 対象 | ヘモグロビン(Hb)の基準値 | 貧血と判定される目安 |
|---|---|---|
| 成人男性 | 13.0 〜 17.0 g/dL | 13.0 g/dL 未満 |
| 成人女性(非妊娠) | 12.0 〜 15.0 g/dL | 12.0 g/dL 未満 |
※WHOは65歳を超える年齢層について、これとは別の基準値を定めていません。また、検査機関によって若干の基準値の差があります。
貧血の代表的な自覚症状には以下のようなものがあります。
注意が必要なのは、貧血が数か月〜数年かけてゆっくり進行した場合、体が低酸素状態に慣れてしまい、Hbが7〜8 g/dL台(著しい重症)まで落ちていても「特に自覚症状がない」と感じる方が多いという点です。症状がないからといって放置してよいわけではありません。
成人の貧血の原因として圧倒的に多いのが、赤血球の材料である鉄が不足する「鉄欠乏性貧血」です。
しかし、ここで最も考えなければならないのは「なぜ体内の鉄が失われたのか」という理由です。
月経血による慢性的な失血が最大の原因です。特に月経量が多い方(過多月経)や、子宮筋腫、子宮内膜症などの婦人科疾患が潜んでいることがよくあります。
男性や閉経後の女性には月経がありません。そのため、鉄欠乏性貧血が起きた場合、「どこかから持続的に出血している(消化管出血)」ことを強く疑わなければなりません。
自覚症状がない初期の大腸がんや胃潰瘍が、健診の貧血をきっかけに見つかることは珍しくありません。「男性の貧血」「閉経後女性の貧血」は絶対に放置してはならないサインです。
極端なダイエットや偏食による鉄分摂取不足、過去の胃切除手術、慢性胃炎による鉄吸収障害なども原因となります。
「健診のヘモグロビン(Hb)は正常値なのに、毎日体がだるくて疲れが取れない」という女性の場合、「かくれ貧血(潜在性鉄欠乏)」が疑われます。
ヘモグロビンを「財布の中に入っている現金」に例えると、フェリチンは「銀行の貯金(貯蔵鉄)」です。
鉄不足が始まると、体はまず銀行の貯金(フェリチン)を崩してヘモグロビン濃度を正常に保とうとします。このとき、健診の一般項目(Hb)だけを見ると「正常」と判定されてしまいますが、実際には貯蔵鉄が底をついており、だるさ、冷え、抜け毛、気分の落ち込み、不眠などの不調を引き起こします。
当院では、慢性的な疲労感やだるさを訴える患者様に対し、血清フェリチンを含む鉄代謝検査を積極的に行っています。
貧血は鉄不足だけではありません。内科では以下のような病気も視野に入れて鑑別します。
健診で貧血を指摘された場合、当院では以下のステップで診療を進めます。
「健診で貧血と言われたけれど、どこに行けばいいかわからない」「市販薬を飲んでも疲れが取れない」という方は、一般内科を担当する当院へご相談ください。
鉄剤を内服すると、便が黒緑色になることがありますが、これは吸収されなかった鉄が排泄されている正常な反応ですので心配いりません。吐き気や胃の不快感、便秘・下痢などの消化器症状が出やすいお薬ですが、服用タイミングの変更(就寝前など)や胃薬の併用、内服薬の種類の変更、または注射薬への切り替えで対処できますので、我慢せず医師にご相談ください。
すでに健診で貧血(ヘモグロビン低下)と判定されている場合、体内の貯蔵鉄はほぼ空っぽの状態です。食事に含まれる鉄分(レバー、赤身肉、ほうれん草、ひじきなど)は吸収率が数%〜十数%と低いため、食事の工夫だけで枯渇した鉄を満たすには数年単位の時間がかかってしまいます。まずは医療用の鉄剤でしっかり補充し、正常に戻った後の再発予防として食事改善を行うのが医学的に正しいアプローチです。
以前は「お茶やコーヒーに含まれるタンニンが鉄の吸収を妨げるため、服用の前後1時間は飲まないように」と言われていました。しかし最近の研究では、現在処方される一般的な医療用鉄剤の量であれば、通常の濃度の緑茶やコーヒーを飲んでも治療効果に実質的な影響はないとされています。水で飲むのが基本ですが、過度に神経質になる必要はありません。
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森田 知宏(もりた・ともひろ)/ 西新井内科クリニック 院長 医師・医学博士 東京大学医学部卒業。一般内科・訪問診療を担当。最新のエビデンス(科学的根拠)にもとづく診療を心がけています。 ▶ 院長の経歴・研究業績を見る |
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診療判断に代わるものではありません。気になる症状や検査結果がある場合は受診をご検討ください。最終更新:2026年9月。記載の制度・費用等は変更される場合があります。
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