甲状腺の病気と検査 ― こんな症状・こんな方は甲状腺のチェックを
甲状腺の病気と検査 ― こんな症状・こんな方は甲状腺のチェックを
「最近どうも疲れやすい」「体重が増えた(あるいは減った)」「むくむ」「動悸がする」「気分が落ち込む」——こうした不調は、つい「年のせい」「疲れのせい」「更年期かな」と片づけられがちです。けれども、その背景に甲状腺(こうじょうせん)の病気が隠れていることがあります。
甲状腺の病気は決して珍しいものではなく、とくに女性と高齢の方に多いことが知られています。そして大切なのは、多くの場合、腕からの採血一本(血液検査)で見当をつけられるという点です。この記事では、(1)甲状腺とはどんな臓器か、(2)どんな症状があるときに検査を考えるとよいか、(3)症状がなくても検査をおすすめしたい方、(4)甲状腺の主な病気、(5)検査と治療の考え方、(6)しこり(結節)や妊娠との関係——を、順にご説明します。
甲状腺は、のどぼとけの下あたりにある、ちょうちょのような形をした小さな臓器です。ここから出る甲状腺ホルモンは、心臓・脳・腸・筋肉・皮膚など全身に働きかけ、体の代謝(エネルギーの使われ方)を調節しています。いわば体の「アクセル」のような役割です。
このホルモンが足りなくなる(機能低下)と全身の働きがゆっくりになり、反対に出すぎる(機能亢進)と全身が高ぶった状態になります。どちらも、体のあちこちにさまざまな不調としてあらわれます。
甲状腺の不調による症状は、ひとつひとつを見ると「よくある不調」で、ほかの病気や加齢、ストレスとも見分けがつきにくいのが特徴です。だからこそ、思い当たる症状が続くときは、一度血液検査で確かめてみる価値があります。
体の代謝がゆっくりになるため、次のような症状が出ることがあります。
これらは甲状腺機能低下症で比較的よくみられる症状ですが、疲労や体重増加などは甲状腺以外の原因でも起こります。症状の数が多いほど甲状腺の関与が疑わしくなる、という目安はあるものの、症状だけで診断はできません。確かめるには血液検査が必要です。
反対に甲状腺ホルモンが過剰になると、全身がアクセルを踏みっぱなしのような状態になります。
とくに高齢の方では、こうした典型的な症状が乏しく、「なんとなく元気がない」「動悸(心房細動)だけ」といった形でしか現れないこともあります。「年のせい」と思える不調の陰に甲状腺の病気が隠れていることがあるため、注意が必要です。
甲状腺の病気は、症状がはっきりしないまま進むことがあります。そのため、はっきりした症状がなくても、リスクの高い方には検査(採血でのTSH測定)をおすすめするのが現在の考え方です。一方で、症状もリスクもない健康な方全員に一律で検査をすること(集団スクリーニング)は、利益がはっきりしないため一般には推奨されていません。次のような方は、一度ご相談ください。
妊娠中・妊娠を考えている方については、後の「妊娠・授乳と甲状腺」もご覧ください。
甲状腺ホルモンが不足する状態です。ヨウ素が十分に摂れている地域(日本を含みます)では、その多くが橋本病(慢性甲状腺炎)という、自分の免疫が甲状腺を少しずつ攻撃してしまうタイプによるものです。ゆっくり進むため気づきにくく、健診の採血ではじめて見つかることもあります。治療は不足したホルモンを薬で補う方法が基本です。
なお、TSHという数値だけが軽く高く、甲状腺ホルモン自体は保たれている「潜在性(せんざいせい)甲状腺機能低下症」という状態もあります。多くは経過観察でよく、すぐに薬が必要になるわけではありません。年齢や数値、症状をみて、治療するかどうかを一緒に考えます。
甲状腺ホルモンが過剰になる状態で、最も多い原因がバセドウ病です。こちらも自己免疫が関わる病気で、甲状腺全体が腫れたり、目の症状(眼球突出)が出たりすることがあります。動悸・体重減少・手のふるえ・暑がりといった症状が手がかりになります。治療には、飲み薬(抗甲状腺薬)、放射性ヨウ素を使う治療、手術といった選択肢があり、年齢や状態に合わせて選びます。
甲状腺に炎症が起こるタイプです。多くは「一時的にホルモンが高くなる→次に低くなる→やがて戻る」という経過をたどります。なかでも亜急性甲状腺炎は、かぜのあとなどに首の前側の痛みを伴って起こることが多く、多くは自然に軽快します。痛みには鎮痛薬や、必要に応じてステロイドを使います。産後甲状腺炎は、出産・流産のあと1年以内に起こることがあります。
甲状腺の働きを調べる最初の検査は、採血で「TSH(甲状腺刺激ホルモン)」を測ることです。TSHは甲状腺の状態を反映する非常に感度の高い指標で、まずこれを調べ、異常があれば甲状腺ホルモン(遊離T4など)を追加で測定します。さらに原因を調べるために、甲状腺の抗体検査や超音波(エコー)検査を行うこともあります。
ご注意いただきたいのは、一般的な健康診断の基本項目には、TSHが含まれていないことが多いという点です。気になる症状がある方や、前述のリスクに当てはまる方は、健診とは別に内科で相談していただくと、必要な検査につなげられます。
首に「しこり」が触れたり、ほかの検査のついでに甲状腺の結節(けっせつ)が見つかったりすることがあります。画像検査が広く使われるようになり、結節自体はとてもありふれた所見です。その大半は良性で、すぐに治療が必要なものではありません。良性か、ごく一部にある悪性(がん)かを見分けるために、超音波検査や、必要に応じて細い針で細胞を調べる検査(細胞診)を行います。
一方で、症状のない方全員に甲状腺がんの検診を行うことは推奨されていません。本来そのままでも問題にならないものまで見つけて、不要な手術や合併症につながる「過剰診断・過剰治療」の害が、利益を上回ると考えられているためです。とはいえ、自分で気づいた首のしこりや腫れ、急に大きくなるしこり、声のかすれや飲み込みにくさを伴う場合は、放置せず受診をおすすめします。
妊娠中は甲状腺ホルモンの必要量が増えるため、甲状腺の状態がお母さんと赤ちゃんの両方に関わってきます。すべての妊婦さんに一律の検査が必要なわけではありませんが、甲状腺の病気の既往・家族歴がある方、1型糖尿病の方、甲状腺の不調を思わせる症状がある方は、妊娠前または妊娠初期の検査がすすめられます。すでに甲状腺の薬を飲んでいる方は、妊娠で必要量が変わることがあるため、自己判断で中断せず、必ず主治医にご相談ください。
甲状腺機能低下症の治療は、不足した甲状腺ホルモンを薬(レボチロキシン)で補い、TSHを適切な範囲に整えるのが基本です。橋本病による低下症では長く続ける必要があることが多い一方、甲状腺炎による一時的な低下では薬が要らなくなることもあります。機能亢進症(バセドウ病など)では、飲み薬などで甲状腺ホルモンを抑える治療を行います。
高齢の方では、加齢とともにTSHの基準範囲そのものが少し上がることが分かっており、若い方と同じものさしで判断すると「治療が必要」と過大評価されてしまうことがあります。また、ホルモンを補いすぎる(過剰治療)と、心房細動や骨がもろくなること(骨粗鬆症)のリスクが上がります。足りなさすぎず、補いすぎず——年齢や心臓の状態に合わせた、ていねいな調整が大切です。
西新井内科クリニックでは、甲状腺の不調が疑われる方に対して、採血でのTSH・甲状腺ホルモン検査を行い、必要に応じて抗体検査や追加の評価を進めます。甲状腺機能低下症に対するホルモン補充(レボチロキシン)の開始・調整や、その後の定期的なフォローも内科で対応します。
そのうえで、バセドウ病に対する放射性ヨウ素治療や手術、甲状腺のしこり(結節)の精密検査、甲状腺がんの治療など、より専門的な検査・治療が必要な場合は、甲状腺の専門医療機関(内分泌内科・専門クリニックなど)へご紹介します。
「疲れや体重の変化が続く」「健診で甲状腺やコレステロールを指摘された」「首の腫れが気になる」「家族に甲状腺の病気の人がいる」といった方は、どうぞお気軽にご相談ください。
甲状腺のことでお困りの方へ ― 西新井内科クリニック(足立区西新井本町)。Web予約はこちら、またはお電話(03-3840-4146)でご予約ください。午後は比較的予約が取りやすくなっています。
基本は腕からの採血だけです。まず「TSH」という項目を測り、異常があれば甲状腺ホルモン(遊離T4など)を追加します。必要に応じて抗体検査や首の超音波(エコー)検査を行うこともあります。痛みや負担の少ない検査です。
一般的な健診の基本項目には、甲状腺の検査(TSH)が含まれていないことが多いです。気になる症状がある方や、ご家族に甲状腺の病気がある方などは、健診とは別に内科で追加の採血を相談していただけます。
甲状腺が原因のこともありますが、多くは生活習慣・ストレス・ほかの病気など別の要因です。症状だけでは見分けがつかないため、気になる場合は採血で確かめるのが確実です。
まずは内科で採血による検査ができます。甲状腺機能低下症の薬の調整やフォローも内科で可能です。専門的な治療(バセドウ病のアイソトープ治療・手術、結節の精密検査など)が必要な場合は、専門医療機関へご紹介します。
受診をおすすめします。甲状腺の結節(しこり)の多くは良性ですが、超音波などで確認することが大切です。急に大きくなる、声のかすれや飲み込みにくさを伴う場合は、早めにご相談ください。
橋本病による甲状腺機能低下症では、長く補充を続ける必要があることが多いです。一方、甲状腺炎による一時的な低下では、薬が要らなくなることもあります。いずれにしても、自己判断で中止せず、検査をしながら調整します。
血のつながったご家族に甲状腺の病気がある方は、発症しやすい傾向があります。気になる症状や、ほかのリスク(1型糖尿病など)がある場合は、一度検査を検討されるとよいでしょう。
本記事は、以下のレビュー論文・診療ガイドラインにもとづいて作成しています。
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森田 知宏(もりた・ともひろ)/ 西新井内科クリニック 院長 医師・医学博士 東京大学医学部卒業。一般内科・訪問診療を担当。最新のエビデンス(科学的根拠)にもとづく診療を心がけています。 ▶ 院長の経歴・研究業績を見る |
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診療判断に代わるものではありません。気になる症状や検査結果がある場合は受診をご検討ください。最終更新:2026年6月。記載の病名・数値・治療等は、ガイドライン改訂などにより変わる場合があります。
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