GLP-1受容体作動薬の主要な臨床試験まとめ
GLP-1受容体作動薬の主要な臨床試験まとめ
「GLP-1で体重が20%減った」「心臓や腎臓にもよいらしい」「でも、やめたら元に戻るのでは」 ―― こうした情報を目にして、実際のところどこまで本当なのかを知りたくて、この記事にたどり着かれた方が多いのではないでしょうか。
この数年、GLP-1受容体作動薬(GLP-1 receptor agonist)の大規模な臨床試験が、世界の主要な医学雑誌で次々と発表されています。体重だけでなく、心臓・腎臓・睡眠時無呼吸・脂肪肝など、さまざまな領域で結果が報告されました。
この記事の目的は、話題の効果を誇張することも、過小評価することもなく、実際の試験結果にもとづいて「何がどこまで分かっているのか」を整理することです。順番に、(1)研究結果を読むときの前提、(2)体重、(3)心血管、(4)腎臓、(5)心不全、(6)睡眠時無呼吸、(7)脂肪肝(MASH)、(8)主要試験の一覧、(9)効果の裏にある限界、をご説明します。
同じ「GLP-1の試験」でも、結果の意味は条件によって大きく変わります。数字だけを取り出すと誤解につながるため、まず次の4点を押さえておくと、どの記事・広告を見ても惑わされにくくなります。
体重減少そのものを主要な目的として、糖尿病でない過体重・肥満の方を対象に行われた代表的な試験が、セマグルチドのSTEP 1とチルゼパチドのSURMOUNT-1です。
STEP 1では、糖尿病でない過体重・肥満の成人1,961人を対象に、セマグルチド2.4mgの週1回皮下注射を68週間続けたところ、平均体重変化は−14.9%(プラセボは−2.4%)でした。
SURMOUNT-1では、糖尿病でない肥満の成人2,539人を対象に、チルゼパチドを72週間投与し、用量に応じて平均−16.0%(5mg)/−21.4%(10mg)/−22.5%(15mg)(プラセボは−2.4%)の体重減少が報告されました。

2つの薬を直接くらべた試験(SURMOUNT-5)では、72週間で体重減少はチルゼパチド−20.2%、セマグルチド−13.7%と報告されています。※ ただしこれは体重の減り方の比較であり、後述する心血管などの「本当に防ぎたい出来事」への効果は、薬によってそろっているエビデンスの量が異なります。体重が多く減ることと、心臓や腎臓を守ることは、分けて考える必要があります。

※ STEP 1・SURMOUNT-1・SURMOUNT-5はいずれも糖尿病でない方が対象で、食事・運動などの生活習慣改善と併用した試験です。
体重が減ることと、実際に心臓の病気を防げることは、同じではありません。その「本当に防ぎたい出来事」を大規模に検証したのがSELECTです。
心血管疾患(心筋梗塞・脳卒中・末梢動脈疾患)の既往があり、過体重または肥満で、糖尿病でない17,604人を対象に、セマグルチド2.4mgとプラセボをくらべました。主要評価項目である主要心血管イベント(MACE:心血管死・非致死性心筋梗塞・非致死性脳卒中)は、セマグルチド群6.5% 対 プラセボ群8.0%(ハザード比0.80、約20%の相対リスク減少)でした。

ここで大切なのが、「約20%減」という相対的な数字だけでなく、実際には8.0%から6.5%へ(絶対差1.5ポイント)という絶対的な差もあわせて見ることです。どちらも同じ結果を別の角度から表しています。体重を減らす薬が、糖尿病でない人でも心血管イベントそのものを減らしうると大規模に示した点で、意義の大きい試験です。
FLOWは、2型糖尿病と慢性腎臓病(CKD)をあわせ持つ3,533人を対象に、セマグルチド1.0mgとプラセボをくらべた試験です。腎臓に関する複合アウトカム(腎機能の大きな低下・末期腎不全・腎臓や心血管が原因の死亡など)は約24%減少(ハザード比0.76)し、心血管が原因の死亡も減少しました。
※ 対象は糖尿病と腎臓病をあわせ持つ方です。糖尿病でない方での同じ規模の腎保護効果は、この試験からは分かりません。
SUMMITは、肥満をともなうHFpEF(左室駆出率が保たれた心不全)の患者731人を対象に、チルゼパチドとプラセボをくらべた試験です。主要な複合評価項目(心血管が原因の死亡+心不全の悪化イベント)はハザード比0.62で、主に心不全の悪化イベントが減ったことによる結果でした。運動能力や症状の指標の改善も報告されています。
SURMOUNT-OSAは、中等症〜重症の閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)と肥満をあわせ持ち、糖尿病でない方を対象に、チルゼパチドを52週間投与した2つの試験(CPAP〈シーパップ/持続陽圧呼吸療法〉を併用しない群と、併用する群)です。無呼吸の重症度を示すAHI(無呼吸低呼吸指数)が有意に低下したほか、体重・血圧・炎症の指標などの改善が報告されました。
ESSENCEは、肝生検で確認したMASH(代謝異常関連脂肪肝炎)で、肝臓の線維化(せんいか/肝臓が硬くなる変化)がステージ2〜3の1,197人を対象に、セマグルチド2.4mgを72週間投与した試験(part 1)です。脂肪肝炎の消失(線維化の悪化なし)が62.9% 対 プラセボ34.3%、線維化の改善(脂肪肝炎の悪化なし)が36.8% 対 22.4%で、体重も平均−10.5%(プラセボ−2.0%)でした。
ここまでの試験を、対象・薬剤・主な結果でまとめます。数字は各試験の対象集団・条件のもとでの結果である点にご注意ください。
| 試験 | 薬剤 | 主な対象 | 主な結果 | 掲載 |
|---|---|---|---|---|
| STEP 1 | セマグルチド | 糖尿病でない過体重・肥満 | 体重 平均−14.9%(68週) | NEJM 2021 |
| SURMOUNT-1 | チルゼパチド | 糖尿病でない肥満 | 体重 −16.0〜−22.5%(用量別・72週) | NEJM 2022 |
| SELECT | セマグルチド | 心血管疾患の既往+過体重/肥満、糖尿病でない | 主要心血管イベント 6.5%対8.0%(HR 0.80) | NEJM 2023 |
| FLOW | セマグルチド | 2型糖尿病+慢性腎臓病 | 腎複合アウトカム 約24%減(HR 0.76) | NEJM 2024 |
| SUMMIT | チルゼパチド | 肥満をともなうHFpEF | 心血管死+心不全悪化 HR 0.62 | NEJM 2025 |
| SURMOUNT-OSA | チルゼパチド | 中等症〜重症OSA+肥満、糖尿病でない | AHI(無呼吸の重症度)が有意に低下 | NEJM 2024 |
| ESSENCE | セマグルチド | MASH(線維化ステージ2〜3) | 脂肪肝炎の消失 62.9%対34.3% | NEJM 2025 |
ここまでの結果は目覚ましいものですが、同じくらい大切なのが、次の限界を正しく理解しておくことです。
実際の治療・費用・適応外使用の注意については、肥満症・メディカルダイエットの診療案内をご覧ください。
試験で報告された数字は、対象となった集団での「平均」です。効果には個人差があり、生活習慣の改善と併用したうえでの結果です。数字だけをご自身に当てはめるのではなく、対象がどんな方だったか(糖尿病の有無・体重・持病)とあわせてご覧ください。
心血管については、糖尿病でない方を対象にしたSELECTで、主要心血管イベントの減少が示されました。一方、腎臓を対象にしたFLOWは糖尿病の方が対象で、糖尿病でない方での同じ規模の腎保護効果は、この試験からは分かりません。領域ごとに、対象と証拠の強さが異なります。
直接くらべたSURMOUNT-5では、体重減少はチルゼパチドの方が大きいという結果でした。ただし心血管などのハードアウトカムのエビデンスの量は薬によって異なります。どちらが適しているかは、目的・持病・副作用の出方などによって変わるため、診察のうえで個別にご相談ください。
中止後の追跡では、体重が戻りやすいことが示されています。だからこそ、薬に頼るだけでなく、食事・運動といった生活習慣の土台づくりを並行して進めることが大切です。
2型糖尿病の治療や、条件を満たした肥満症の治療では、保険が適用される場合があります。一方、減量目的で糖尿病用の薬を使う適応外使用は自費診療となります。適応や費用の詳細は診療案内でご説明しています。
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森田 知宏(もりた・ともひろ)/ 西新井内科クリニック 院長 医師・医学博士 東京大学医学部卒業。一般内科・訪問診療を担当。最新のエビデンス(科学的根拠)にもとづく診療を心がけています。 ▶ 院長の経歴・研究業績を見る |
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、特定の医薬品の使用を勧めたり、個別の診療判断に代わるものではありません。治療をご検討の際は、必ず医師にご相談ください。
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