フルミストは大人にも効く?― 成人では注射ワクチンより効果が弱い可能性
フルミストは大人にも効く?― 成人では注射ワクチンより効果が弱い可能性
「インフルエンザワクチンを受けたいけれど、注射が本当に苦手」
そんな成人の方から、「子どもが使っているフルミストを、大人も使えませんか」と聞かれることがあります。
フルミストは、鼻の中に噴霧する経鼻弱毒生インフルエンザワクチン(LAIV)です。注射針を使わないため、とくに注射が苦手なお子さんには大きな利点があります。
では、大人にも効くのでしょうか。
成人でもインフルエンザを予防する効果はあります。ただし、小児ほど強い効果は期待しにくく、成人では通常の注射型ワクチンのほうが有効だった研究もあります。
そのため、日本では成人は承認の対象ではありません。一方、米国では現在も2〜49歳に承認されており、成人への使用経験そのものがないわけではありません。
日本のフルミスト点鼻液の承認用法は、2歳以上19歳未満に0.2 mLを1回です。
したがって、19歳以上への使用は国内では適応外使用になります。
一方、米国FDAではFluMistは2〜49歳に承認されています。
つまり、「成人に使ったことがないから日本では承認されていない」というわけではありません。成人を対象とした臨床試験は複数あり、海外では成人にも実際に使用されています。
1999年に JAMA に報告されたランダム化二重盲検プラセボ対照試験では、18〜64歳の健康な就労成人4,561人を、経鼻生ワクチン3,041人とプラセボ1,520人に分けて比較しました。
流行期に「1回以上の発熱性疾患を経験した人」の割合には、明確な差がありませんでした。
一方で、
という結果でした。
つまり、成人でもまったく効かないわけではありません。
2007〜2008年シーズンに、健康な18〜49歳の成人1,952人を対象として、不活化インフルエンザワクチン(注射)・経鼻生ワクチン(LAIV)・プラセボをランダム化して比較した研究があります。
PCRまたはウイルス培養で確認されたインフルエンザに対する有効率は、
でした。
さらに、注射型を受けた方では、フルミスト型を受けた方より検査で確認されたインフルエンザが約50%少ないという結果でした。
このシーズンでは、成人については明らかに注射型のほうが優れていました。
別の2004〜2005年シーズンのRCTでも、成人では不活化ワクチンの有効性が確認された一方、LAIVの効果は弱い結果でした。
CDCも、成人ではLAIVと注射型が同程度だった研究もあるが、多くの比較研究では注射型のほうが有効、または少なくとも劣らないと整理しています。
フルミストは、弱毒化したインフルエンザウイルスを鼻粘膜でわずかに増殖させることで、鼻粘膜の免疫、IgA抗体、細胞性免疫、血中抗体など、複数の免疫反応を誘導します。
インフルエンザへの免疫経験が少ない子どもでは、この仕組みが非常によく働きます。
一方、大人は過去の感染やワクチン接種による免疫記憶をすでに持っています。そのため、経鼻投与した弱毒ウイルスが鼻粘膜で十分に増殖しにくく、LAIVによる追加の免疫刺激が小児ほど強くならない可能性があります。
18〜49歳の成人を対象とした免疫学的研究でも、LAIV後の血清抗体反応はわずかで、注射型ワクチンより明らかに弱いことが確認されています。
成人で36%という有効率を見て、「半分以下なら意味がない」と考える必要はありません。
インフルエンザワクチンの有効率は、その年に流行したウイルス、ワクチン株との一致、過去の感染歴、過去のワクチン歴、年齢などによって毎年変わります。
さらに成人を対象とした大規模研究では、フルミストによって重い発熱性疾患、欠勤、医療機関の受診が減っています。
したがって、
成人にも一定の予防効果はあるが、通常の注射型ワクチンを超えるとは考えにくい
という表現が最も近いでしょう。
これは実際の診療では重要です。
たとえば「注射なら絶対にワクチンを受けない。けれど鼻からなら受けてもいい」という成人の方がいたとします。
この場合、
の2択であれば、フルミストを選ぶ合理性はあります。
とくに、針への恐怖が非常に強い方、採血や注射で迷走神経反射を起こしやすい方、注射への抵抗のため毎年インフルエンザワクチンを避けている方といった、健康な若年成人では、適応外使用について十分にご説明したうえで検討する余地があります。
一方で、「鼻のほうがよく効きそうだから」という理由で成人があえて注射型からフルミストへ変更することは、現在のエビデンス(科学的根拠)からは積極的には勧めにくいでしょう。
米国FDAでは現在、FluMistは2〜49歳のインフルエンザ予防に承認されています。
したがって、19〜49歳については、日本は適応外、米国は承認範囲内、という違いがあります。
これは安全性のうえで「成人には使えない」という意味ではなく、各国で承認された年齢範囲が異なるということです。
フルミストは生ワクチンです。
国内の電子添文では、明らかに免疫機能に異常のある疾患をお持ちの方、免疫抑制をきたす治療を受けている方、妊娠していることが明らかな方、本剤の成分でアナフィラキシーを起こしたことがある方などは接種できないとされています。
成人で「針が嫌だからフルミスト」と考える場合でも、まず生ワクチンを使用して問題ない状態かを確認する必要があります。
成人(18〜49歳)を対象とした米国の臨床試験で、接種後にみられた症状は次のとおりでした。
| 症状 | フルミスト | プラセボ |
|---|---|---|
| 鼻水 | 44% | 27% |
| 頭痛 | 40% | 38% |
| のどの痛み | 28% | 17% |
鼻水とのどの痛みは、プラセボよりはっきり多くなります。一方、頭痛は40%と数字だけ見ると多いのですが、プラセボでも38%で、ほとんど差がありません。
先ほどの成人4,561人のRCTでも、接種後7日以内に鼻水やのどの痛みが多く、一方で重い有害事象の発生はプラセボ群と差がありませんでした。
国内の電子添文では、10%以上にみられる副反応として鼻閉・鼻漏、咳、のどの痛み、頭痛が挙げられています。重大な副反応としてはショック、アナフィラキシー(いずれも頻度不明)が記載されています。米国の添付文書では、これらに加えてギラン・バレー症候群が注意事項として挙げられています。
つまり、多くは鼻かぜのような症状で、数日で治まります。ただし、まれに重いアレルギー反応が起こる可能性はゼロではないため、接種のあとは院内で少し様子をみます。
19歳以上の方へのフルミストは、国内で承認された年齢の範囲を外れる適応外使用です。ご希望される場合は、次の点をご理解いただいたうえでの接種になります。
現在のエビデンスからは、成人に対するフルミストを、注射型インフルエンザワクチンより優れたワクチンとして勧める根拠はありません。
むしろ健康な成人のRCTでは、注射型ワクチンのほうが高い有効性を示した研究があります。
そのため、成人では原則として通常の注射型ワクチンが標準的な選択肢です。
一方で、「注射が本当に苦手で、注射ならワクチン接種そのものを受けない」という19〜49歳程度の健康な成人の方については、
をご理解いただいたうえで、一つの選択肢として検討する余地はあると考えています。
フルミストは、日本では2歳以上19歳未満に承認されている経鼻生インフルエンザワクチンです。
成人を対象とした研究もあり、成人でも効果はあります。
一方、成人で注射型ワクチンと直接比較したRCTでは、注射型の有効率68%に対しフルミスト型は36%と、注射型のほうが有効でした。
小児とは反対に、成人では注射型ワクチンのほうが強い効果を示す研究が多いのが現状です。
成人にフルミストを積極的に勧めるほどの優位性はありません。ただし「針が本当に嫌で、注射ならワクチンを受けない」という健康な成人の方には、適応外使用をご理解いただいたうえで検討できる選択肢です。
というのが、現在のエビデンスから見た現実的な位置づけでしょう。
成人でも予防効果はあります。18〜64歳の健康な就労成人4,561人を対象としたランダム化二重盲検プラセボ対照試験では、重い発熱性疾患が約19%、発熱を伴う上気道感染が約24%減りました。ただし小児ほど強い効果は期待しにくく、成人では通常の注射型ワクチンのほうが有効だった研究もあります。
健康な18〜49歳の成人1,952人で直接比較したランダム化比較試験では、検査で確認されたインフルエンザに対する有効率が注射型68%、フルミスト型36%でした。成人では原則として注射型の不活化ワクチンが標準的な選択肢です。
日本での承認用法は2歳以上19歳未満に0.2 mLを1回で、19歳以上への接種は適応外使用にあたります。当院で使用するフルミスト点鼻液は国内の正規流通経路から仕入れた国内承認品です。費用は8,000円(自費)で、適応外使用による健康被害は医薬品副作用被害救済制度の対象外です。
成人(18〜49歳)を対象とした米国の臨床試験では、鼻水が44%(プラセボ27%)、のどの痛みが28%(プラセボ17%)でした。頭痛は40%ですがプラセボでも38%でほとんど差がありません。多くは鼻かぜのような症状で数日で治まりますが、まれにショックやアナフィラキシーが起こることがあります。
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森田 知宏(もりた・ともひろ)/ 西新井内科クリニック 院長 医師・医学博士 東京大学医学部卒業。一般内科・訪問診療を担当。科学的根拠にもとづき、患者さんごとの背景を考慮した診療を行っています。 ▶ 院長の経歴・研究業績を見る |
※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診療判断に代わるものではありません。実際の接種の可否は、診察のうえで判断します。
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