同じものを食べても、夜の方が太りやすい?|食べる時間と代謝の科学
同じものを食べても、夜の方が太りやすい?|食べる時間と代謝の科学
「夜遅く食べると太る」
昔からよく言われる話です。
これに対して、
1日の摂取カロリーが同じなら、朝食べても夜食べても同じでは?
と考える方もいるでしょう。
エネルギー収支という意味では、この考え方は基本的に正しい部分があります。体重を決める最大の要因は、やはり長期的な摂取エネルギーと消費エネルギーのバランスです。
しかし近年の研究では、少し面白いことが分かってきました。
同じカロリー、同じ栄養素を食べても、「何時に食べるか」によって、その後の血糖値、インスリン分泌、脂肪の燃え方、食事誘発性熱産生などが変わる可能性があります。
つまり、
「吸収されるカロリーが大きく変わる」というより、「吸収した栄養を体がどう処理するか」が時間帯によって違う
と考えた方が正確です。
この分野は「時間栄養学(chrononutrition)」と呼ばれ、近年かなり研究が進んでいます。
私たちの体には約24時間周期の概日リズム(体内時計)があります。
睡眠・覚醒だけでなく、
などにも日内変動があります。
そのため、食事内容が同じでも、朝と夜では食後の代謝反応が完全には同じになりません。
特に多くの研究で比較的一貫しているのが、夜遅い時間ほど糖を処理する能力が低下する傾向です。
2015年のランダム化クロスオーバー研究では、健康な成人20人にまったく同じ食事を朝8時または夜8時に食べてもらいました。
すると、夜に食べた場合には朝に比べて、
という違いがみられました。
食事内容も摂取カロリーも同じです。
つまり、同じ食事でも体の反応は時間帯によって異なることを示した実験です。
食べ物を消化・吸収・代謝するにもエネルギーが必要です。
これを食事誘発性熱産生(diet-induced thermogenesis:DIT)と呼びます。
2020年のランダム化クロスオーバー試験では、健康な男性16人に、朝と夜で高カロリー食・低カロリー食を入れ替えて食べてもらいました。
すると、同じカロリーを摂取した場合でも、朝食後のDITは夕食後のおよそ2.5倍でした。
さらに、同じ食事でも夕食後の方が血糖値とインスリンの上昇が大きくなっていました。
この研究だけを見れば、
「同じ500 kcalなら朝に食べた方が、体が処理するために使うエネルギーが多い」
ということになります。
ただし、DITの違いだけで長期的な体重差をすべて説明できるほど大きな効果とは限りません。
糖だけではありません。
2020年、Johns Hopkins Universityの研究グループは、健康な成人20人を対象に、
を比較するランダム化クロスオーバー試験を行いました。
食事内容、カロリー、就寝時刻は同じです。
さらに、この研究では食事中の脂肪に安定同位体トレーサーをつけ、食べた脂肪が体内でどの程度酸化されるかまで測定しています。
その結果、22時の夕食では、
という変化がみられました。
つまり、夜遅く食べた場合には、同じ脂肪を食べても脂肪を燃焼する方向より、蓄える方向に傾く可能性があります。
特に普段から早寝の人ほど、この影響が強くみられました。
これは重要な点です。
単純に「22時だから悪い」のではなく、
自分の体内時計に対してどれだけ遅い時間に食べたか
が重要なのかもしれません。
なぜ夜の食事で糖処理能力が低下するのでしょうか。
一つの候補がメラトニンです。
メラトニンは夜になると増加し、睡眠の準備をするホルモンです。
一方、膵臓のβ細胞にもメラトニン受容体があり、メラトニンが高い時間帯にはインスリン分泌が抑制される可能性があります。
2022年の *Diabetes Care* に掲載されたランダム化クロスオーバー試験では、845人という比較的大きな集団で、
に同じ75 gのブドウ糖を摂取した場合を比較しました。
就寝1時間前ではメラトニン濃度が約3.5倍高く、
していました。
さらに、2型糖尿病リスクと関連するMTNR1B遺伝子のGアレルを持つ人ほど、この影響が強くなっていました。
つまり、夜遅い食事による血糖悪化には、単なる「夜更かし」ではなく、
メラトニンが高い時間に食事をすること自体
が関係している可能性があります。
さらに興味深い研究があります。
2022年の *Cell Metabolism* では、過体重・肥満の成人を対象に、食事内容、カロリー、睡眠時間、身体活動量、光曝露までそろえたうえで、
という条件を比較しました。
摂取カロリーは同じです。
それにもかかわらず遅い時間帯に食べると、
しました。
つまり、遅い食事は単に「その食事の処理」を変えるだけでなく、次の食事までの食欲やエネルギー消費にも影響する可能性があります。
ただし、この研究は厳密な代わりに参加者数が少なく、短期間の実験です。
これだけで「夜食をやめれば必ず痩せる」とは言えません。
食べる時間の研究から広がったのが、time-restricted eating(TRE:時間制限食)です。
たとえば、
などです。
理論上は、長い絶食時間を作ることで脂肪酸化を促し、さらに夜遅い食事を避けることで体内時計とのズレを減らすことが期待されます。
ただし、ここは少し冷静に見る必要があります。
2022年の *New England Journal of Medicine* のRCTでは、肥満のある139人を、
に分けて12か月追跡しました。
体重は、
でしたが、群間差は統計学的に有意ではありませんでした。
つまり、
摂取カロリーを同じように減らしているなら、「8時間以内に食べる」という条件を加えても大幅に痩せるわけではない
という結果です。
「16時間断食なら、食事内容を気にしなくても痩せる」というほど単純ではありません。
一方、最近の研究ではTREの長さより、いつ食べるかの方が重要なのではないか、という結果が増えています。
2026年の *BMJ Medicine* の系統的レビュー・ネットワークメタ解析では、41のRCT、2,287人を解析しました。
全体としてTREは通常食と比べて、
を改善していました。
さらに、TREを時間帯別に比較すると、early TRE(早い時間帯に食事を終える方法)の方がlate TREより良好でした。
early TREはlate TREと比較して、
という差があり、この比較についてはエビデンスの確実性も高いと評価されています。
一方で、「6時間窓が8時間窓よりよい」といった食事可能時間の長さについては結果が一貫しませんでした。
これはかなり示唆的です。
「何時間断食するか」より、「夜遅くまで食べ続けないこと」の方が重要なのかもしれない
ということです。
2024年の *JAMA Network Open* のメタ解析では、12週間以上続けた29のRCT、2,485人が解析されました。
その結果、
という効果がみられました。
ただし著者ら自身が、効果量は小さく、臨床的な意味は不確実としています。
つまり、時間栄養学は確かに存在しますが、
「朝に食べればカロリーが帳消しになる」ほど強力な効果ではありません。
摂取カロリー、食品の質、運動、睡眠などの基本を上回る魔法ではありません。
この分野を説明するとき、
「朝と夜では栄養の吸収率が違う」
と言われることがあります。
完全な間違いではありませんが、少し誤解を招く表現です。
現在、より明確に示されているのは、
同じ量を食べても、その後の代謝反応が違う
ということです。
たとえば、
| 朝・早い時間 | 夜・遅い時間 |
|---|---|
| 糖を処理しやすい | 食後血糖が上がりやすい |
| インスリン感受性が比較的高い | インスリン反応が不利になりやすい |
| 食事誘発性熱産生が大きい | 食事誘発性熱産生が小さい |
| 脂肪酸化が起こりやすい | 脂肪酸化が低下しやすい |
| メラトニンが低い | 就寝前はメラトニンが高い |
という違いです。
小腸から「何kcal吸収されるか」が劇的に変化するというより、吸収した糖や脂肪を燃やすのか、蓄えるのか、どれだけインスリンを必要とするのかが変わると考えた方がよいでしょう。
残念ながら、
「20時以降は絶対に食べてはいけない」
という医学的な境界線はありません。
生活リズムは人によって違うためです。
18時に寝る人と深夜2時に寝る人では、22時の食事が持つ意味は同じではありません。
研究全体から考えると、
といった方法は合理的です。
一方、仕事の都合で夕食が遅い方が、無理に夕食を抜いて強い空腹や低血糖を起こす必要はありません。
糖尿病治療中の方では、インスリンやSU薬などとの関係もあるため、食事時間を大きく変える場合には薬の調整が必要になることがあります。
「夜遅く食べると太る」という昔からの言い伝えには、一定の生理学的根拠があります。
ただし、
夜に食べるとカロリーの吸収率が突然高くなる
という単純な話ではありません。
現在の研究では、同じ食事でも夜遅くなるほど、
可能性が示されています。
また、時間制限食についても、
「何時間食べないか」以上に、「食事を1日の前半に寄せ、夜遅くまで食べ続けないこと」が重要かもしれない
というエビデンスが増えてきています。
ただし、その効果はカロリー制限や食事内容を無視できるほど大きくありません。
現時点では、
「何を、どれだけ食べるか」が基本。そのうえで「いつ食べるか」も少し意識する。
くらいが、最も現実的な位置づけでしょう。
糖尿病や肥満では、食事量だけでなく食後血糖のパターンや生活時間も含めて治療を考えることがあります。
「夜に食べるとカロリーの吸収率が突然高くなる」という単純な話ではありません。より正確には、同じ量を食べても、その後の代謝の反応が時間帯によって違います。
健康な成人20人にまったく同じ食事を朝8時と夜8時に食べてもらった研究では、夜に食べた場合のほうが食後血糖が高く、インスリン反応が大きく、食後のエネルギー消費が少なくなっていました。健康な成人20人を対象に18時と22時の夕食を比べた研究では、22時の夕食で夜間の血糖が高く、食事由来の脂肪酸の酸化が低下していました。
つまり、吸収されるカロリーが変わるというより、吸収した糖や脂肪を燃やすのか蓄えるのかが変わる、と考えるほうが正確です。
「20時以降は絶対に食べてはいけない」という医学的な境界線はありません。
生活リズムは人によって違うためです。18時に寝る方と深夜2時に寝る方では、22時の食事が持つ意味は同じではありません。実際、22時の夕食で代謝の変化が強くみられたのは、普段から早寝の方でした。
研究全体から考えると、1日の摂取カロリーを夜に偏らせすぎない、就寝直前の大きな食事を避ける、可能なら夕食と就寝の間を数時間空ける、といった方向で十分です。
カロリー制限を上回るほどの効果は確認されていません。
肥満のある139人を12か月追跡したランダム化比較試験では、8時〜16時だけ食べる方法にカロリー制限を加えた群で−8.0 kg、カロリー制限のみの群で−6.3 kgでしたが、群間の差は統計学的に有意ではありませんでした。
12週間以上続けた29のランダム化比較試験・2,485人をまとめたメタ解析でも、時間制限食による追加の体重減少は約1.37 kgで、著者ら自身が効果量は小さく臨床的な意味は不確実としています。「食事内容を気にしなくても痩せる」というほど単純ではありません。
「早い時間帯に食事を終える方法」のほうが良好という結果が出ています。
41のランダム化比較試験・2,287人を解析した2026年の系統的レビュー・ネットワークメタ解析では、早い時間帯に食事を終える方法は、遅い時間帯に食べる方法と比べて体重が約1.15 kg少なく、空腹時インスリンが約3.3 μIU/mL低いという差がありました。この比較についてはエビデンスの確実性も高いと評価されています。
一方、「6時間窓が8時間窓よりよい」といった食事可能時間の長さについては、結果が一貫しませんでした。「何時間断食するか」より「夜遅くまで食べ続けないこと」のほうが重要かもしれません。
無理に夕食を抜いて、強い空腹や低血糖を起こす必要はありません。
遅い時間の食事に不利な点があるのは確かですが、その効果は摂取カロリーや食事内容を無視できるほど大きくはありません。仕事の都合で夕食が遅くなる方は、夕食を抜くことより、1日の摂取カロリーを夜に偏らせすぎないこと、就寝直前の大きな食事を避けることを優先していただくのが現実的です。
同じ8時間の時間制限食を行うのであれば、昼から夜に寄せるより、朝から夕方に寄せるほうが理にかなっています。
食事時間を大きく変える場合は、事前にご相談ください。
インスリンやSU薬(スルホニル尿素薬)などを使用している方では、食事の時刻を変えると薬の効き方との関係が変わり、低血糖や血糖の乱れにつながることがあります。薬の量やタイミングの調整が必要になることがあります。
糖尿病や肥満では、食事量だけでなく食後血糖のパターンや生活時間も含めて治療を考えます。自己判断で食事を抜いたり大きく時間をずらしたりする前に、一度ご相談いただければと思います。
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森田 知宏(もりた・ともひろ)/ 西新井内科クリニック 院長 医師・医学博士 東京大学医学部卒業。一般内科・訪問診療を担当。最新のエビデンス(科学的根拠)にもとづく診療を心がけています。 ▶ 院長の経歴・研究業績を見る |
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診療判断に代わるものではありません。気になる症状や検査結果がある場合は受診をご検討ください。
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