LDLは160未満なら薬はいらない?|スタチンを始める基準と選び方
LDLは160未満なら薬はいらない?|スタチンを始める基準と選び方
健康診断でLDLコレステロールが高いと言われても、
「まだ薬を飲むほどではないですよね」
「160を超えるまでは食事で様子を見ればいいですよね」
と思う方は多いかもしれません。
実際、日本動脈硬化学会の2022年版ガイドラインでは、心筋梗塞や狭心症などを起こしたことがない一次予防の人について、将来の動脈硬化性疾患リスクに応じてLDLコレステロールの管理目標を設定しています。
(高リスクの方のうち、糖尿病があって末梢動脈疾患や細小血管症〈網膜症・腎症・神経障害〉を合併している場合、あるいは喫煙している場合は、100 mg/dL未満とされています)
たとえば心血管リスクが低い人でLDL-Cが150 mg/dLだった場合、日本のガイドライン上は必ずしも薬物療法が必要とはされません。
一方、最近の欧州ガイドラインや新しい臨床試験をみると、
「スタチンを始めるハードルは、これまでより少し低めに考えてもよいのではないか」
と思わせるデータが増えています。
ただし、ここで重要なのは、
「少し早めに始める」ことと、「全員に強いスタチンを使う」ことは別
という点です。
2025年に欧州心臓病学会・欧州動脈硬化学会(ESC/EAS)が公表したFocused Updateでは、心血管病のない人(一次予防)について、生活習慣の改善を行ったうえで、LDL-Cを下げる薬物療法を「考慮すべき(Class IIa)」とする範囲が、リスク区分ごとに次のように示されました。
さらに数値が高い場合、つまり非常に高リスクでLDL-C 70 mg/dL以上、高リスクで100 mg/dL以上のときは、「推奨する(Class I)」と、より強い表現になっています。
低リスクでも116 mg/dLという数字を見ると、日本の160 mg/dLとはかなり違って見えます。
ただし、「LDL-Cが116 mg/dL以上なら全員スタチン」ではありません。
116 mg/dLという数字も、2025年に突然新しく設定されたわけではありません。2025年Focused Updateでは、リスク区分ごとのLDL-Cの治療目標そのものは2019年ガイドラインから変更されていない、と明記されています。
大切なのは、LDL-Cだけを見るのではなく、
などを含めて、その人の心血管リスク全体を考えることです。
近年のESC/EASでは、冠動脈石灰化(CAC)、画像で確認された動脈硬化、Lp(a)なども、治療するか迷う人のリスクを再評価する材料として重視されています。
高齢者の一次予防は、これまで判断が難しい領域でした。
2026年8月29日のESC Congress 2026では、この問題について重要な研究であるSTAREE試験の結果が発表され、同時に *New England Journal of Medicine* に掲載されました。
STAREEには、心血管病、糖尿病、認知症のない70歳以上の9,971人が登録され、アトルバスタチン40 mgまたはプラセボに無作為に割り付けられました。
追跡期間の中央値は5.9年で、心血管死、非致死性心筋梗塞、脳卒中、冠動脈血行再建を合わせた主要心血管イベントは、
8.3%から6.0%へ減少しました。
ハザード比は0.70(95%信頼区間 0.61〜0.82)で、相対的には約30%の減少です。
絶対差は2.3%なので、単純計算では約6年間に1件の主要心血管イベントを防ぐために治療が必要な人数(NNT)は約43人です。
これまで70歳以上、特に75歳を超える人の一次予防については、大規模RCTのデータが十分とは言えませんでした。
STAREEは、少なくとも元気に生活している70歳以上の人について、「高齢だから」という理由だけでスタチンを避ける必要はなさそうだと考える根拠になります。
一方で、死亡・認知症・持続する身体障害を合わせた「障害なく生存できる期間」には有意な改善がありませんでした(12.8%対13.6%、ハザード比0.94、95%信頼区間 0.84〜1.05)。
つまり、
「スタチンを飲めば健康寿命そのものが延びる」
とまでは言えません。
研究チームは、この試験での死亡の約8割が心血管以外の原因によるものだったことを、その理由の一つとして挙げています。
また、フレイルが強い人、余命が限られている人、多数の薬を服用している人に同じ結論をそのまま当てはめるべきでもありません。
スタチンを始める際に気になる副作用の一つが、糖尿病の発症リスクです。
これは単なる噂ではなく、ランダム化比較試験でも確認されています。
2024年に *Lancet Diabetes & Endocrinology* に掲載されたCTT Collaborationの個人データメタ解析では、糖尿病のない人における新規糖尿病は、
していました。
ただし、血糖値そのものへの影響は小さく、平均HbA1cの上昇は、
でした。
また、新たに糖尿病と診断された人の約62%は、治療前から血糖指標が上位4分の1に入っていました。
つまり、多くの場合は、
血糖が正常な人をスタチンが突然糖尿病にするというより、もともと糖尿病になりやすい人の血糖をわずかに押し上げ、診断される時期を少し早める
というイメージに近そうです。
なお、STAREEでも、筋肉・肝臓・糖尿病に関連する有害事象はプラセボよりアトルバスタチン群で多く報告されています。一方で、重篤な有害事象の頻度は両群とも2.7%で同じでした。
スタチン開始前にHbA1cを確認しておくことには意味があります。
たとえばLDL-Cが130 mg/dLでも、
という人なら、心血管イベントを防ぐ利益に比べて、スタチンによる糖尿病リスクを過度に心配する必要はないでしょう。
反対に、
という人では、そもそもの心血管イベントの絶対リスクが低く、糖尿病発症リスクの方が気になるため、
「ESCでは116 mg/dL以上だから」
という理由だけでスタチンを始める必要性は低いでしょう。
ただし、HbA1cはスタチンを始めるかどうかを決める正式な基準ではありません。
心血管イベントを防ぐ利益と、糖代謝への小さな不利益を比較する材料の一つ
として考えるのがよいでしょう。
ここまで読むと、
「それならスタチンを早めに始めて、しっかりLDLを下げればよいのでは?」
と思うかもしれません。
ただ、低リスクの一次予防まで治療対象を広げるのであれば、必要以上に強い治療を全員に行わないことも重要です。
STAREEで使われたのはアトルバスタチン40 mgでした。
ただし、アトルバスタチン40 mgは、日本では家族性高コレステロール血症の重症例に用いられる用量です。通常の高コレステロール血症では1日20 mgまでとされているため、海外の試験の用量をそのまま日本の診療に当てはめられるわけではありません。
アトルバスタチンは長い使用実績があり、心筋梗塞や脳卒中を減らすエビデンスが非常に豊富なスタチンです。
しかし、STAREEでアトルバスタチンが使われたからといって、日本人の一次予防でもアトルバスタチン一択ということにはなりません。
日本人を対象に、アトルバスタチン10 mg、ロスバスタチン2.5 mg、ピタバスタチン2 mgを直接比較したPATROL試験では、3剤はいずれもLDL-Cを約40~45%低下させました。
一方、16週間の観察では、HbA1cはアトルバスタチン群とロスバスタチン群で上昇し、ピタバスタチン群では同様の上昇がみられませんでした。
もちろん、この研究は302人と小規模で、観察期間も短期間です。
これだけで、
「ピタバスタチンなら糖尿病にならない」
と言うことはできません。
ただ、2024年の13研究をまとめたメタ解析でも、新規糖尿病はピタバスタチンの方がアトルバスタチンやロスバスタチンより少ないという結果が報告されています。
こちらも観察研究を含むため確定的ではありませんが、もともとHbA1cが高めの人では、薬剤選択を考える材料にはなります。
スタチンは、単にLDL-Cという数字を下げるための薬ではありません。
日本人でも、心血管イベントを減らしたランダム化比較試験があります。
日本人の安定冠動脈疾患患者13,054人を対象としたREAL-CAD試験では、ピタバスタチン4 mgは1 mgより主要心血管イベントを有意に減らしました。
ただし、これはすでに冠動脈疾患がある人を対象とした二次予防の研究です。
一次予防について、より直接的な日本人データがMEGA Studyです。
冠動脈疾患や脳卒中の既往がない日本人7,832人を対象に、
を比較したところ、プラバスタチン群ではLDL-Cの低下は約18%でしたが、冠動脈疾患は33%少なくなりました。
つまり、
日本人でもスタチンによって心血管イベントを減らせること自体には、直接的な臨床試験の裏付けがあります。
ここが、最近のエビデンスを実際の診療に落とし込むときのポイントだと思います。
従来のように、
「低リスクなら160 mg/dLを超えるまで薬は考えない」
と一律に考えるのではなく、年齢、高血圧、喫煙、CKD、家族歴などによっては、LDL-C 120~150 mg/dL程度でもスタチンを選択肢に入れる。
その一方で、治療対象を低リスク側まで広げるのであれば、
最初から全員に強い量のスタチンを使う必要はありません。
特にHbA1cが高めの人では、
といった考え方もあります。
逆に、すでに動脈硬化性疾患がある人や心血管リスクが高い人では、糖尿病発症リスクを恐れてLDL-C低下を不十分にする方が問題になることがあります。
つまり、
「誰にスタチンを始めるか」と、「どのスタチンをどの強さで使うか」は別々に考える必要があります。
日本のガイドラインでは、一次予防の低リスク者ならLDL-C 160 mg/dL未満が管理目標です。
一方、ESC/EASでは低リスクでもLDL-C 116 mg/dL以上で薬物療法を考慮できます。
さらにSTAREEでは、70歳以上の一次予防でもスタチンによって主要心血管イベントが減少しました。
こうした結果を考えると、
「160 mg/dLを超えるまでスタチンは考えなくてよい」
と一律に考えるのは、少し慎重すぎるかもしれません。
一方で、
「116 mg/dL以上なら全員スタチン」
でもありません。
そして、治療を少し早めに始めるからといって、
「全員に強いスタチンを使う」
必要もありません。
年齢、血圧、喫煙、HbA1c、腎機能、家族歴などから心血管リスクを評価し、治療による利益が期待できる人にはこれまでより少し早めにスタチンを提案する。
そのうえで、必要なLDL-C低下量や糖代謝への影響を考えながら薬剤と用量を選ぶ。
「少し早めに、必要な強さで」
というのが、現在のエビデンスを日本人の一次予防に取り入れる際の、現実的な考え方ではないかと思います。
健診でLDLコレステロールが高かった方や、「薬を飲むほどなのかわからない」という方は、検査結果をお持ちいただければ、他のリスクも含めて治療の必要性を検討できます。
日本動脈硬化学会の2022年版ガイドラインで、一次予防・低リスクの方の管理目標がLDL-C 160 mg/dL未満とされているのは事実です。ただしこれは「低リスクと判定された場合」の目標です。
中リスクなら140 mg/dL未満、高リスクなら120 mg/dL未満(糖尿病があって末梢動脈疾患や細小血管症を合併している場合、または喫煙している場合は100 mg/dL未満)と、リスク区分によって目標値は変わります。
まず年齢・血圧・喫煙・糖尿病・腎機能・家族歴などからご自身がどの区分にあたるかを確認することが先で、LDL-Cの数値だけで薬の要否は決まりません。
2025年のESC/EAS Focused Updateでは、一次予防で低リスクの方でも、生活習慣の改善を行ったうえでLDL-C 116 mg/dL以上190 mg/dL未満であれば、薬物療法を「考慮すべき(Class IIa)」としています。日本の160 mg/dLとはかなり差があります。
ただし「116 mg/dL以上なら全員スタチン」という意味ではありません。欧州のガイドラインでも、年齢や他の危険因子を含めた心血管リスク全体をふまえて判断することが前提です。
日本と欧州では目標値の設定が異なりますので、欧州の数字をそのまま当てはめるのではなく、「低リスクなら160を超えるまで一切考えない」という一律の考え方は少し慎重すぎるかもしれない、という参考材料として捉えるのがよいと思います。
発症リスクがわずかに上がることは、ランダム化比較試験でも確認されています。
2024年のCTT Collaborationによる個人データメタ解析では、糖尿病のない方における新規糖尿病が、低〜中強度スタチンで相対的に約10%、高強度スタチンで約36%増えていました。一方でHbA1cの平均上昇は、それぞれ約0.06%、約0.08%とごくわずかでした。
また、新たに糖尿病と診断された方の約62%は、治療前から血糖の指標が上位4分の1に入っていた方でした。血糖が正常な方が突然糖尿病になるというより、もともとなりやすい方の診断時期が少し早まる、というイメージに近いと考えられます。
心血管イベントを防ぐ利益の方が上回る方も多いため、両者を比べたうえで判断します。
2026年8月に発表されたSTAREE試験が、この問いを直接検討しています。
心血管病・糖尿病・認知症のない70歳以上の9,971人を、アトルバスタチン40 mgとプラセボに無作為に割り付け、中央値5.9年追跡しました。心血管死・非致死性心筋梗塞・脳卒中・冠動脈血行再建を合わせた主要心血管イベントは、8.3%から6.0%へ減少しています(ハザード比0.70、95%信頼区間 0.61〜0.82)。
一方で、死亡・認知症・持続する身体障害を含めた「障害なく生存できる期間」には有意な改善がありませんでした。
「高齢だから」という理由だけでスタチンを避ける必要はなさそうですが、フレイルが強い方、余命が限られている方、多くの薬を服用している方に、同じ結論をそのまま当てはめることはできません。
HbA1cが高めであること自体は、スタチンを使えない理由にはなりません。
むしろ糖尿病予備群にあたる方は心血管リスクも高いことが多く、心血管イベントを防ぐ利益が、糖代謝への小さな影響を上回る場合があります。すでに動脈硬化性疾患がある方や心血管リスクが高い方では、糖尿病発症を恐れてLDL-Cの低下が不十分になる方が問題になることもあります。
一方で、開始前にHbA1cを確認しておくことには意味があります。糖代謝が気になる場合は、低〜中用量から始める、必要なLDL-C低下量をみながら調整する、といった進め方が考えられます。
なお、HbA1cはスタチンを始めるかどうかを決める正式な基準ではなく、利益と不利益を比べる材料の一つです。
LDL-Cを下げる効果は用量を合わせればおおむね同等ですが、糖代謝への影響には差がある可能性が指摘されています。
日本人を対象にアトルバスタチン10 mg、ロスバスタチン2.5 mg、ピタバスタチン2 mgを直接比較したPATROL試験(302人・16週)では、3剤ともLDL-Cを約40〜45%低下させました。一方、HbA1cはアトルバスタチン群とロスバスタチン群で上昇し、ピタバスタチン群では同様の上昇がみられませんでした。
2024年に13研究をまとめたメタ解析でも、新規糖尿病はピタバスタチンの方が少ないと報告されています。ただし観察研究を含むため、確定的な結論ではありません。
「ピタバスタチンなら糖尿病にならない」とまでは言えませんが、もともとHbA1cが高めの方では、薬剤選択を考える材料になります。
血圧・血糖・コレステロールが気になる方へ
当院では、高血圧・糖尿病・脂質異常症・高尿酸血症を、ひとつの外来でまとめて診ています。健診結果の用紙をそのままお持ちください。
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森田 知宏(もりた・ともひろ)/ 西新井内科クリニック 院長 医師・医学博士 東京大学医学部卒業。一般内科・訪問診療を担当。最新のエビデンス(科学的根拠)にもとづく診療を心がけています。 ▶ 院長の経歴・研究業績を見る |
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診療判断に代わるものではありません。気になる症状や検査結果がある場合は受診をご検討ください。
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