帯状疱疹ワクチンは「帯状疱疹を防ぐだけ」ではない?― 認知症・腎機能・心血管への副次的効果
帯状疱疹ワクチンは「帯状疱疹を防ぐだけ」ではない?― 認知症・腎機能・心血管への副次的効果
「50歳を過ぎたら帯状疱疹のワクチンを打ったほうがいいと聞いた」「区から案内が届いたけれど、受けたほうがよいのか分からない」「4万円は高い。それだけの価値があるのか」――帯状疱疹ワクチンについて、外来でよくいただくご質問です。

帯状疱疹ワクチンというと、「帯状疱疹と、そのあとに残る神経の痛みを防ぐためのワクチン」というイメージが一般的でしょう。これはもちろん正しいです。
現在広く使われている組換え帯状疱疹ワクチン(シングリックス)は、50歳以上で帯状疱疹を約97%予防し、70歳以上でも約90%の効果を保ちます。
さらに近年、認知症・腎機能の低下・心血管イベント・死亡についても、接種した方のほうが少なかったという研究が相次いでいます。
結論から申し上げます。
帯状疱疹そのものを予防する効果は確立しています。一方、認知症・腎機能・心血管への効果は、非常に興味深いデータが増えてはいるものの、現時点では「追加の可能性」であって、証明された予防効果ではありません。
そのうえで、当院としての立場は次のとおりです。
足立区の定期接種の対象年齢にあたる方(令和8年度に65・70・75・80・85・90・95・100歳になる方)には、強くおすすめします。無料で受けられ、逃すと次の機会は5年後です。50〜64歳の方は定期接種の対象外で自費になりますが、区の助成が使えます。こちらもおすすめします。
この記事では、(1)帯状疱疹ワクチンが帯状疱疹そのものにどれだけ効くか、(2)認知症・腎臓・心血管について何が分かっていて何が分かっていないか、(3)当院での費用と足立区の助成、を順にご説明します。
帯状疱疹の原因は、水ぼうそうと同じ水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)です。
子どものころに水ぼうそうにかかると、VZVは体から完全に消えるわけではありません。神経節(しんけいせつ)の中に潜伏し、生涯にわたって体内に残ります。
加齢、病気、免疫を抑える治療などによってVZVに対する細胞性免疫が下がると、ウイルスが再び活動を始めます。神経に沿って炎症が起こり、痛みを伴う皮疹として現れるのが帯状疱疹です。
つまり帯状疱疹ワクチンは、「新しいウイルスの侵入を防ぐワクチン」ではなく、すでに体内に潜んでいるVZVの再活性化を抑えるワクチンと考えると分かりやすいでしょう。
50歳以上の15,411人を対象としたランダム化プラセボ対照試験(ZOE-50)では、帯状疱疹に対するワクチン有効率は97.2%でした。
70歳以上を対象としたZOE-70試験でも、有効率は89.8%です。ZOE-50とZOE-70を合わせた70歳以上の解析では、帯状疱疹を91.3%、帯状疱疹後神経痛を88.8%予防しました。
2025年に公表された長期追跡(ZOE-LTFU)では、50歳以上において、接種1か月後から11年間を通じた帯状疱疹予防効果は87.7%、11年目だけを見ても82.0%が保たれていました。
つまり「数年しか効かないワクチン」ではなく、10年を超えて効果が続くことが分かってきています。
効果が高いぶん、シングリックスは副反応も出やすいワクチンです。
ZOE-50試験では、接種した部位の痛み・赤み・腫れや、だるさ・筋肉痛・頭痛・発熱といった全身の反応が、プラセボよりはっきり多くみられました。日常生活に支障が出るほどの強い反応(グレード3)は、接種した方の17.0%、プラセボでは3.2%でした。
ほとんどは1〜3日でおさまります。重い有害事象や免疫が関係する病気の発生、死亡の割合は、ワクチン群とプラセボ群で同程度でした。
1回目より2回目のほうが強く出ることがあります。翌日に予定を入れないでおく、金曜日に接種するなど、少し余裕をみておくと安心です。
VZVは神経親和性ウイルス――神経を好むウイルスです。
再活性化すると、神経炎、脳炎、髄膜炎、血管炎、脳卒中などを起こすことがあります。
はっきりした脳炎まで起こさなくても、VZVの再活性化による慢性的な神経の炎症や血管の障害が、長期的な認知機能に影響するのではないか。この可能性は以前から議論されてきました。
そこから、「帯状疱疹を防げば、認知症も減るのではないか」という研究が始まりました。
米国の保険データベースを用いて4,502,678人を解析した研究があります。
認知症の発症率(10,000人年あたり)は、
でした。交絡因子を調整すると、2回接種した方の認知症リスクは約32%低いという関連です(ハザード比0.68)。
ただし、これは後ろ向きコホート研究です。ワクチンをきちんと2回受ける方は、健康への意識、医療へのかかりやすさ、定期受診の習慣といった点で、もともと認知症になりにくい特徴を持っている可能性があります。これをhealthy vaccinee bias(健康なワクチン接種者バイアス)と呼びます。
2025年に Nature に発表されたウェールズの研究は、このバイアスの問題を考えるうえで重要です。
ウェールズでは帯状疱疹ワクチンの導入時に、1933年9月2日以降に生まれた方だけが接種対象という、明確な線引きがありました。1週間早く生まれた方は対象外、1週間遅く生まれた方は対象です。
生まれた日が数週間違うだけであれば、喫煙、運動、教育、医療への意識、持病などが大きく違うとは考えにくいでしょう。
ところが接種率だけは、この境界線を挟んで0.01%から47.2%へ跳ね上がりました。実際の医療政策を利用した自然実験(natural experiment)です。
この研究では、帯状疱疹ワクチンを受けたことにより、7年間の新規の認知症診断が絶対値で3.5パーセントポイント、相対的に20.0%減少すると推定されました。
対象は生ワクチン(Zostavax)ですが、通常の観察研究より交絡の影響を受けにくいデザインです。
日本で中心となっているのは生ワクチンではなく、組換えワクチンのシングリックスです。
2024年の Nature Medicine の研究では、米国で生ワクチンからシングリックスへ急速に切り替わった時期を利用して比較しました。組換えワクチンを受けた方は、生ワクチンを受けた方より、その後6年間で認知症と診断されずに過ごせる期間が17%長く、認知症を発症した方に限ると診断まで平均164日長いという結果でした。
2026年には、米国メディケアの65歳以上を対象に、シングリックス2回接種者502,845人と未接種者1,005,690人(合計約151万人)を照合した研究も報告されました。新規の認知症の発症率は1,000人年あたり10.45対15.73で、ハザード比は追跡3年以内で0.67、3年超で0.74でした。
※ この研究には、シングリックスを製造するGSKの研究者が共著者として参加しています。ZOE-50・ZOE-70試験も同社の資金で実施されました。
つまり認知症との関連は、生ワクチンでもシングリックスでも、異なる医療データ・異なる研究デザインで繰り返し観察されています。
それでも、認知症を主要評価項目としたランダム化比較試験はまだありません。
もっとも分かりやすい説明です。
VZVが再活性化すると、皮膚に帯状疱疹が出るだけではありません。神経にも血管にも炎症が起こります。とくにVZVは脳の血管に感染してVZV血管症(VZV vasculopathy)を起こし、脳梗塞や脳出血につながることがあります。
皮疹として現れない不顕性再活性化(ふけんせいさいかっせいか)が、繰り返し起きている可能性も指摘されています。
こうした再活性化を長期的に減らすことで、神経の炎症、血管炎、微小血管の障害、脳卒中などが減り、その結果として認知症のリスクが下がる、という筋道です。
高齢の方の認知症は、純粋なアルツハイマー病だけで説明できないことが多くあります。実際には、アルツハイマー病理、小血管病、脳梗塞、炎症、神経変性が混ざり合っています。
VZVの再活性化が全身の炎症や脳血管の炎症を起こすのであれば、それを防ぐことで脳の血管と神経に対する慢性的なダメージを減らす可能性があります。
ここが最近とくに注目されている部分です。
シングリックスには、VZVの抗原だけでなくAS01Bという強力なアジュバント(免疫を強める補助成分)が含まれています。
この刺激がVZVに対する免疫を強めるだけでなく、訓練免疫(trained immunity)と呼ばれる、より広い免疫系の作り替えを起こすのではないか、という議論があります。
実際、2025年には、同じAS01系のアジュバントを使うRSVワクチンでも認知症リスクの低下との関連が報告されました。
これが本当なら、「帯状疱疹を防いだ結果として認知症が減る」だけでなく、「AS01による免疫の調節そのものが関係する」という可能性も出てきます。ただし、この機序はまだ仮説の段階です。
2026年8月28日、Hypertension Research に、慢性腎臓病(CKD)の患者さんを対象としたシングリックスの研究が報告されました。
米国のデータベースから、50歳以上で新たにCKDと診断された方について、接種者13,218人と未接種者13,218人を傾向スコアでマッチングし、中央値3.0年追跡しています。主要評価項目は末期腎不全への進行または透析の開始です。
接種者では腎不全・透析導入が約37%少ないという関連です。2回接種を完了した方ほどリスクの低下が大きい傾向もありました。
ここは認知症以上に慎重に考える必要があります。
この研究はランダム化比較試験ではなく、観察研究です。しかも全死亡がハザード比0.51、つまり約半分という非常に大きな差が出ていること自体が、ワクチンの効果だけでは説明できないhealthy vaccinee biasが残っている可能性を示しています。
したがって現時点では、
「CKDの患者さんでは、シングリックスを接種した方の腎不全への進行が少なかった。ただし腎臓を守る効果そのものが証明されたわけではない」
という表現が適切でしょう。
CKDの患者さんは細胞性免疫が下がりやすく、帯状疱疹にかかりやすいことが知られています。CKD・透析・移植の患者さん404,561人を含むメタ解析では、帯状疱疹ワクチンを接種した方で帯状疱疹のリスクが低下していました。
さらに、CKDの患者さんが帯状疱疹を発症すると、その後の末期腎不全のリスクが高いという報告があります。台湾の研究では、帯状疱疹を発症した方の末期腎不全リスクは36%高い(ハザード比1.36)というものでした。
考えられる仕組みとしては、VZV感染に伴う全身の炎症、血管内皮の障害、脱水、急性腎障害、抗ウイルス薬による腎臓への負担などがあります。
つまり、帯状疱疹という「腎臓に負担をかける出来事」を防ぐことで、長期的な腎機能の低下も減るという可能性です。ただし、これもまだ仮説です。
帯状疱疹のあとには、一時的に脳卒中や心筋梗塞のリスクが上がることが知られています。VZVによる血管炎、全身の炎症、血が固まりやすくなることなどが関与すると考えられています。
そのため、帯状疱疹を防げば、そのあとに増える心血管イベントも減るのではないか、という考え方は自然です。先ほどのCKDの研究でも、接種者は心血管イベントが約26%少ないという関連でした。
認知症の機序としても脳血管障害の減少が考えられていますから、認知症・心血管疾患・腎疾患は完全に別々の「副効果」ではなく、VZVの再活性化 → 全身の炎症・血管の障害という共通の道筋を抑えている可能性もあります。
現時点では、そこまで申し上げるべきではありません。
認知症については、大規模コホート、自然実験、生ワクチン、シングリックスと、比較的一貫した結果が出ています。かなり有望です。しかし、認知症を主要評価項目としてシングリックスとプラセボを比較した大規模ランダム化比較試験は、まだありません。
患者さんへのご説明としては、
「本来の目的は帯状疱疹と帯状疱疹後神経痛の予防です。最近は認知症も少なくなる可能性が注目されていますが、まだ追加の可能性として研究されている段階です」
というくらいが妥当だと考えています。腎機能の保護については、さらにエビデンスが新しく、より慎重に扱うべきです。
副次的な効果を抜きにしても、シングリックスは非常に有効なワクチンです。
帯状疱疹は単なる皮膚の病気ではありません。高齢の方では、激しい急性の痛み、帯状疱疹後神経痛、顔面神経麻痺、眼の合併症、脳炎、脳血管障害などを起こすことがあります。
とくに帯状疱疹後神経痛は、皮疹が治ったあとも何か月、場合によっては年単位で痛みが続きます。発症は50歳代から増え、80歳までに約3人に1人が帯状疱疹にかかると推定されています。
シングリックスは帯状疱疹そのものを高い確率で予防し、その効果が11年後も保たれることが示されています。
つまり、認知症や腎臓への副次的な効果が今後否定されたとしても、帯状疱疹を防ぐワクチンとして受ける価値そのものは変わりません。
ここがもっとも実際的な話です。
| 生ワクチン(ビケン) | 不活化ワクチン(シングリックス) | |
|---|---|---|
| 接種回数 | 1回・皮下注射 | 2回(2か月以上あけて)・筋肉注射 |
| 当院の費用(税込) | 約8,800円 | 約22,000円×2回=約44,000円 |
| 50〜64歳・区の助成後の目安 | 約3,800円 | 約24,000円 |
| 定期接種の対象年齢の方 | 無料 | 無料 |
足立区の定期接種(無料・令和8年度)の対象
足立区の任意接種の助成(50歳以上65歳未満の区民の方)
※ 節目の年齢を過ぎると、次の機会は5年後です。たとえば66歳から69歳の方は、定期接種の対象でも50〜64歳の助成の対象でもないため、全額自費(シングリックスで約44,000円)になります。区から案内が届いた年度のうちに受けていただくのが、いちばん確実です。
※ 任意接種の助成を使って接種を完了した方は、そのあと定期接種を受けることはできません。
※ 費用は2026年8月時点の当院の料金です。予防接種は病気の治療ではないため健康保険は使えず、定期接種・助成の対象外の方は自費(自由診療)になります。
一度かかった方にも接種をおすすめします。帯状疱疹は再発することがあり、加齢とともに免疫が下がっていくためです。皮疹が治ってからの接種で構いません。
認知症の予防を目的にお勧めする段階ではありません。本来の目的は帯状疱疹と帯状疱疹後神経痛の予防です。認知症については有望なデータが増えていますが、認知症を主要評価項目としたランダム化比較試験はまだありません。
効果の高さと持続では、シングリックスが優れています。ウイルスの一部から作られているため、免疫を抑える治療を受けている方でも接種できます。一方で費用が高く、副反応も強めです。1回で済ませたい方、費用を抑えたい方には生ワクチンという選択肢もあります。診察のうえでご相談ください。
シングリックスは不活化ワクチンですので、ほかのワクチンとの接種間隔に制限はありません。同じ日に受けていただくこともできます。ご希望があれば診察時にご相談ください。
明らかな発熱がある方、重い急性の病気にかかっていることが明らかな方、ワクチンの成分でアナフィラキシーを起こしたことがある方です。生ワクチンはこれに加えて、免疫を抑える治療を受けている方、明らかに免疫の機能に異常のある病気をお持ちの方、妊娠していることが明らかな方には使えません。
シングリックスは、帯状疱疹と帯状疱疹後神経痛を強力に予防するワクチンです。50歳以上で97.2%、70歳以上でも89.8%の予防効果があり、11年後にも82.0%が保たれていました。
そして最近、認知症・腎不全・心血管イベント・死亡についても、接種した方のほうが少ないという研究が相次いでいます。とくに認知症については、通常の観察研究だけでなく、接種資格の年齢の境界を利用した自然実験でも20.0%のリスク低下が示されており、かなり興味深い結果です。
考えられている仕組みは、(1)VZVの再活性化そのものを減らす、(2)神経の炎症・血管炎・脳血管障害を減らす、(3)AS01アジュバントによる訓練免疫などの免疫調節、の3つです。
ただし、認知症の予防や腎機能の保護は、現時点では確立したワクチンの効果ではありません。とくに腎臓のデータは観察研究であり、healthy vaccinee biasの影響を完全に除くことはできません。
現在の位置づけは、
「帯状疱疹を防ぐという確実なメリットがまずあり、そのうえで認知症・心血管・腎臓にもよい副次的な効果があるかもしれない」
と考えるのが最も妥当でしょう。
足立区の定期接種の対象年齢にあたる方は、無料で受けられます。次の機会は5年後です。案内が届いている方は、この1年のうちにお済ませください。50〜64歳の方も、生涯1度の区の助成が使えます。
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森田 知宏(もりた・ともひろ)/ 西新井内科クリニック 院長 医師・医学博士 東京大学医学部卒業。一般内科・訪問診療を担当。最新のエビデンス(科学的根拠)にもとづく診療を心がけています。 ▶ 院長の経歴・研究業績を見る |
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診療判断に代わるものではありません。実際の接種の可否は、診察のうえで判断します。
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