「ベジファースト」はもう古い?|食べる順番と血糖値を最新研究から考える
「ベジファースト」はもう古い?|食べる順番と血糖値を最新研究から考える
「血糖値が気になるなら、まず野菜から食べましょう」
いわゆるベジファーストは、糖尿病予防やダイエットの方法として広く知られるようになりました。
ところが最近、
「ベジファーストはガイドラインから消えた」
「実は意味がなかったらしい」
という話を目にすることがあります。
これは半分正しく、半分誤解があります。
確かに、以前の国内資料にあった「野菜を先に食べる」という記載は、最新のガイドラインや食事摂取基準では前面に出なくなっています。
しかし、「野菜を先に食べても血糖値には何の影響もない」と否定されたわけではありません。
むしろ近年の研究を見ると、
「野菜を最初に食べること」そのものより、「ご飯やパンなどの炭水化物を後に食べること」が本質なのではないか
という見方の方が、現在のエビデンスには合っています。
この記事では、ベジファーストがなぜ広まり、なぜ最近のガイドラインから記載が減ったのか、そして「食べる順番」について現在どこまで分かっているのかを整理します。
厚生労働省の『日本人の食事摂取基準(2020年版)』では、糖尿病の章に「食事摂取パターン」という項目がありました。
そこでは、食物繊維に富む野菜を先に食べることで、
ことが報告されている、と紹介されていました。
ただし同じ段落には、野菜でなくても、たんぱく質などの主菜を先に食べ、その後に炭水化物を食べれば食後血糖の上昇が抑えられるとも書かれていました。
つまり、2020年の時点でも「野菜だけが特別」という書き方ではありませんでした。
日本糖尿病学会の『糖尿病診療ガイドライン2019』にも、同様に食べる順番についての記載がありました。
日本糖尿病学会の『糖尿病診療ガイドライン2024』では、食事療法の章が大きく再構成されています。
最新ガイドラインでは、
などがClinical Question(CQ)として評価されています。
一方、「野菜を先に食べる」「食べる順番」といった項目は、独立した推奨として掲載されていません。
厚生労働省の『日本人の食事摂取基準(2025年版)』でも、2020年版に存在した「食事摂取パターンとシフトワーカー」という節そのものがなくなり、そこに書かれていたベジファーストの記載もなくなりました。
ここだけを見ると、
「ベジファーストは効果がないと判定されたのでは?」
と思うかもしれません。
しかし、公的資料には「効果が否定されたため削除した」とは書かれていません。
ガイドラインは改訂のたびにClinical Questionや対象範囲、評価方法が変わります。
したがって、
「記載がなくなった」=「効果が否定された」
とは限りません。
ここは区別する必要があります。
「ベジファーストが消えた」と聞くと、「野菜や食物繊維も意味がない」と受け取られかねません。
これは明確に誤りです。
『糖尿病診療ガイドライン2024』では、2型糖尿病について、
積極的な食物繊維摂取は血糖コントロールに有効
として推奨グレードB(CQ3-6)とされています。
野菜、穀物、大豆、きのこ、果物、海藻などから食物繊維を十分摂取することには、現在も医学的な意味があります。
変わったのは、
「野菜を必ず一口目に食べること」まで強く推奨するだけの長期的な根拠があるか
という部分です。
ここが面白いところです。
同じ食品、同じカロリーを食べても、順番を変えるだけで食後の血糖値はかなり変わるという実験研究は繰り返し報告されています。
2017年、2型糖尿病患者16人を対象としたクロスオーバー研究では、同じ食事を、
という3パターンで比較しました。
炭水化物を最後に食べた場合、炭水化物を最初に食べた場合と比べて、
していました。
これはかなり大きな違いです。
さらに、炭水化物を最後にするとGLP-1の分泌が増えることも確認されました。
GLP-1は、食後のインスリン分泌を促すだけでなく、胃から腸への食物の移動を遅らせる働きがあります。
つまり、
野菜・肉・魚などを先に食べる → GLP-1などが分泌される → 胃排出がゆっくりになる → 後から入ってくる炭水化物の吸収が緩やかになる
という仕組みが考えられています。
このような研究を考えると、重要なのは「野菜を最初に食べること」というより、
炭水化物を最初に大量に入れないこと
なのかもしれません。
実際、肉や魚などのたんぱく質を先に食べても、食後血糖が抑えられることが報告されています。
健康なアジア人を対象とした研究でも、
のいずれでも、ご飯を最初に食べる場合より食後血糖が低くなりました。
したがって最近は研究上、
carbohydrate-last(炭水化物を最後に)
あるいは
carbohydrate-later(炭水化物を後に)
という表現がよく使われます。
「ベジファースト」よりも、この表現の方が現象を正確に表していると言えます。
2025年には、日本人の健康成人を対象として、実際の和定食を使った研究も報告されています。
参加者は持続血糖測定器(CGM)を装着し、
という条件を比較しました。
すると、おかずを先に、ご飯を後に食べた場合に食後血糖の上昇がもっとも小さくなりました。
牛丼を使った実験でも、具を先に食べて15分後にご飯を食べると、同時に食べる場合より食後血糖が低くなりました。
「実験用の特殊な食事」ではなく、普段の日本食に近い食事でも同じ傾向が確認された点は興味深い結果です。
最大の理由は、食後血糖が一時的に下がることと、糖尿病が長期的に改善することは別だからです。
短時間のクロスオーバー試験では、食べる順番の効果は比較的はっきりしています。
しかし、患者さんが半年、1年とこの食べ方を続けたときに、
については、エビデンスがずっと弱くなります。
2022年に発表された系統的レビュー・メタ解析では、2型糖尿病患者230人、8試験をまとめたところ、炭水化物を後に食べても、通常の食事指導と比較したHbA1cの改善は明確ではありませんでした。
研究者らは、標準的な食事指導を超えて食べる順番を積極的に推奨する根拠はないと結論づけています。
この研究では、エビデンスの確実性も低い、または非常に低いと評価されました。
その後も研究は続いています。
2025年に公表された新しいメタ解析では、2型糖尿病患者を対象とした17研究、389人をまとめています。
炭水化物を最後に食べる方法では、対照と比較して、
という結果でした。
つまり、食後血糖を抑える効果はかなり一貫している一方、長期的なHbA1cへの影響はあっても小さい、という姿が見えてきています。
2026年の別の系統的レビューでも、糖尿病患者では炭水化物を最後にすることで食後血糖が低くなる傾向が確認されましたが、エビデンスの確実性は低いと評価されています。
したがって現在の位置づけは、
「効かない」のではなく、「食後血糖への効果はありそうだが、長期的な健康効果まで強く推奨できるほどの研究はまだない」
と考えるのが最も正確でしょう。
食べる順番の研究では、脂質やたんぱく質を炭水化物より先に摂ると、GLP-1分泌や胃排出の遅延によって食後血糖が抑えられることがあります。
そこから、
「実はベジファーストではなく脂質ファーストが正しい」
という主張もあります。
しかし、これはそのまま一般的な健康法として勧められる話ではありません。
バターや脂身などを積極的に最初に食べればよいという根拠はありませんし、食事全体のエネルギー量や飽和脂肪酸摂取量が増えれば別の問題が生じます。
食後血糖という一つの指標だけを改善しても、食生活全体が悪化しては意味がありません。
現在の研究を日常生活に落とし込むなら、私は次のくらいに考えるのが妥当だと思います。
「ベジファースト」という言葉がガイドラインから消えても、野菜や食物繊維の重要性は変わりません。
丼物や麺だけを急いで食べるより、
野菜・肉・魚・豆腐などのおかずをある程度食べてから主食を食べる
方が、食後血糖という観点では合理的です。
食べる順番と同じくらい、「いつ食べるか」「食べたあとどうするか」も食後血糖に効きます。「同じものを食べても、夜の方が太りやすい?」「食後10分歩くだけで血糖値は変わる?」もあわせてご覧ください。
ご飯を最後に食べても、最後に大盛りのご飯をすべて食べれば、糖質摂取量そのものは変わりません。
体重やHbA1cの長期管理では、
などの方が重要です。
サラダを一口食べた直後に大盛りのご飯を食べれば、それだけで血糖上昇が防げると考える根拠はありません。
研究では、野菜やたんぱく質をある程度先に摂取し、数分~十数分後に炭水化物を食べる方法が使われています。
日常生活でそこまで厳密に再現する必要はありませんが、「最初の一口だけ野菜」より、「主食を食事の後半に持ってくる」と考える方が研究内容には近いでしょう。
「ベジファーストがガイドラインから消えた」という話は事実の一部を捉えています。
以前の国内資料には、野菜を先に食べることで食後血糖などが改善するという記載がありましたが、2024~2025年の最新資料ではその記載は前面からなくなっています。
しかし、
「ベジファーストの効果が否定されたから削除された」と公式に説明されているわけではありません。
研究全体を見ると、
というのが現在の理解です。
ですから、
「野菜から食べる」という習慣をやめる必要はありません。
ただ、それだけを糖尿病予防の切り札のように考えるのも違います。
食後血糖が高い方なら、食事内容を大きく変えずに試せる一つの工夫として、「ご飯・パン・麺を食事の後半にする」ことは合理的です。
糖尿病や健診で血糖高値を指摘された場合には、食べる順番だけでなく、HbA1c、体重、食事量、運動、必要に応じて薬物療法まで含めて考える必要があります。
半分正しく、半分は誤解があります。
厚生労働省の『日本人の食事摂取基準(2020年版)』や以前の学会ガイドラインにあった「野菜を先に食べる」という記載は、2024〜2025年の最新資料では前面に出なくなりました。しかし、公的資料に「効果が否定されたため削除した」と書かれているわけではありません。ガイドラインは改訂のたびに評価する項目や方法が変わるため、「記載がなくなった」=「効果が否定された」とは限りません。
実際、同じ食事でも炭水化物を後に食べると食後血糖が下がりやすいという研究は繰り返し報告されています。
同じような効果が報告されています。
健康なアジア人を対象とした研究では、「野菜→肉→ご飯」でも「肉→野菜→ご飯」でも、ご飯を最初に食べる場合より食後血糖が低くなりました。
このため最近の研究では「ベジファースト」よりも carbohydrate-last(炭水化物を最後に)という表現がよく使われます。重要なのは「野菜を最初に食べること」というより、「ご飯やパンなどの炭水化物を最初に大量に入れないこと」と考えるほうが、現在のエビデンスには合っています。
研究では、野菜やたんぱく質をある程度先に摂取し、数分〜十数分後に炭水化物を食べる方法が使われています。
たとえば日本人の健康成人を対象に牛丼を使った実験では、具を先に食べて15分後にご飯を食べると、同時に食べる場合より食後血糖が低くなりました。
日常生活でそこまで厳密に再現する必要はありませんが、「最初の一口だけ野菜」にこだわるより、「主食を食事の後半に持ってくる」と考えるほうが研究の内容には近いといえます。
下がるとしても、その効果は小さいと考えられます。
2022年の系統的レビュー・メタ解析では、2型糖尿病の方230人・8試験をまとめたところ、炭水化物を後に食べても通常の食事指導と比べたHbA1cの改善は明確ではありませんでした。その後、2型糖尿病の方389人・17研究をまとめた新しいメタ解析では、食後60分の血糖が約43 mg/dL、120分の血糖が約13 mg/dL低下し、HbA1cも約0.16%低下という結果でした。
つまり「食後血糖を抑える効果はかなり一貫している一方、長期的なHbA1cへの影響はあっても小さい」というのが現在の姿です。
順番より「量」のほうが重要であることを、あわせて意識していただくのがよいと思います。
ご飯を最後に食べても、最後に大盛りをすべて食べれば糖質の摂取量そのものは変わりません。体重やHbA1cの長期的な管理では、総エネルギー量、炭水化物量、食物繊維、食品の質、体重、運動といった要素のほうが重要です。
そのうえで、丼物や麺だけを急いで食べるより、小鉢やサラダ、たんぱく質のおかずをある程度食べてから主食にとりかかる、というくらいの工夫は合理的です。
そのまま一般的な健康法として勧められる話ではありません。
脂質やたんぱく質を炭水化物より先に摂ると、GLP-1の分泌や胃排出の遅れによって食後血糖が抑えられることはあります。しかし、バターや脂身などを積極的に最初に食べればよいという根拠はありませんし、食事全体のエネルギー量や飽和脂肪酸の摂取量が増えれば別の問題が生じます。
食後血糖という一つの指標だけを改善しても、食生活全体が悪化しては意味がありません。
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森田 知宏(もりた・ともひろ)/ 西新井内科クリニック 院長 医師・医学博士 東京大学医学部卒業。一般内科・訪問診療を担当。最新のエビデンス(科学的根拠)にもとづく診療を心がけています。 ▶ 院長の経歴・研究業績を見る |
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診療判断に代わるものではありません。気になる症状や検査結果がある場合は受診をご検討ください。
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