不眠症の治し方 ― 睡眠薬に頼る前にできること、新しい薬、減らし方
不眠症の治し方 ― 睡眠薬に頼る前にできること、新しい薬、減らし方
不眠症といっても、症状の出方は人によって違います。よくあるのは、次のようなタイプです。
問題になるのは、夜に眠れないことそのものだけではありません。日中に眠気、倦怠感、集中力低下、意欲低下、頭重感、気分の落ち込みなどが出て、生活の質が落ちているかどうかが大切です。
また、「眠れない」と思っていても、背景に別の病気が隠れていることもあります。
たとえば、「大きないびきをかく」「寝ている間に呼吸が止まっていると言われた」「睡眠時間は取っているのに日中の眠気が強い」という方は、不眠症だけでなく睡眠時無呼吸症候群の可能性があります。その場合は、いびき・睡眠時無呼吸の検査も検討します。
詳しくは、当院のいびき・睡眠時無呼吸症候群のページもご参照ください。
数日から数週間だけ眠れない、という状態は珍しくありません。心配事があるとき、仕事が忙しいとき、旅行先や引っ越し後など、環境の変化で一時的に眠れなくなることはあります。
医学的には、不眠と日中の不調が週3日以上あり、それが3か月以上続く場合、慢性不眠症と考えられます。3か月未満の場合は短期不眠症とされます。
ただし、3か月待たなければ受診してはいけない、という意味ではありません。次のような場合は、早めに相談してよい状態です。
特に注意したいのが寝酒です。アルコールは一時的に寝つきをよくするように感じることがありますが、睡眠の後半を浅くし、中途覚醒を増やすことがあります。量が増えると依存の問題も出てきます。眠れないからお酒でしのぐ、という対応はおすすめできません。
不眠症の治療というと、「睡眠薬をもらうこと」と考える方が多いかもしれません。しかし、近年の不眠症診療では考え方が変わってきています。
慢性不眠症に対して、海外の診療ガイドラインでは、不眠症に対する認知行動療法、いわゆるCBT-Iが初期治療として重視されています。CBT-Iは、睡眠に関する生活習慣、行動、考え方を整理し、眠れない状態を固定化している悪循環をほどいていく治療です。
ここで大事なのは、「睡眠衛生を少し説明するだけ」では不十分だという点です。
たとえば「カフェインを控えましょう」「寝る前のスマホをやめましょう」という助言は大切ですが、それだけで長年の不眠が改善するとは限りません。実際には、次のような要素を組み合わせて考えます。
睡眠薬は必要な場合に有効な選択肢ですが、「薬だけで何とかする」よりも、生活と考え方の立て直しを土台にしたほうが、長期的には安定しやすいと考えられています。
当院でもいきなり薬を増やすのではなく、問診をしたうえで方針を考えますし、必要に応じて別の疾患が隠れていないかも検査します。
不眠症の対策では、「よく眠るために何を足すか」だけでなく、「眠れなくしている要因を減らす」ことが重要です。
眠れなかった翌日は長く寝て取り戻したくなりますが、起床時刻が大きくずれると体内時計が乱れ、次の日の寝つきがさらに悪くなることがあります。
休日も含めて、起きる時刻のずれを大きくしすぎないことが基本です。
朝の光は体内時計を整える強い手がかりになります。
起床後にカーテンを開ける、可能なら短時間でも外に出る、通勤や散歩で日光を浴びるといった行動が役立ちます。
昼寝は、短時間なら有用なこともありますが、夕方以降の長い昼寝は夜の睡眠を妨げます。
昼寝をするなら、午後早めの時間に短く済ませるのが無難です。
コーヒー、緑茶、紅茶、エナジードリンクなどに含まれるカフェインは、人によっては午後以降の摂取でも睡眠に影響します。
「自分はカフェインに強い」と思っていても、中途覚醒や眠りの浅さに関係していることがあります。
寝る直前までスマートフォンで動画やSNSを見ていると、光の刺激だけでなく、情報の刺激で頭が休まりにくくなります。
寝室にスマートフォンを持ち込まない、通知を切る、寝る前の作業を固定するなど、眠る前の環境を単純にすることが有効です。
ベッドで何時間も眠れずに悩むことが続くと、脳が「ベッド=眠れない場所」と覚えてしまいます。
眠れない時間が長く続くときは、いったん床を離れ、暗めの環境で静かに過ごし、眠気が出てから戻るという考え方もあります。
このようなやり方を取り入れながら、必要に応じて薬物療法も組み合わせる方が効果的です。
よくあるのが、「まずは市販の睡眠改善薬で様子を見てもよいですか」という質問です。
市販の睡眠改善薬は、一時的な不眠に短期間使うための薬です。多くは、抗ヒスタミン薬の「眠気が出る」という作用を利用しています。
ここで誤解しやすいのは、「市販薬だから弱い」「市販薬だから処方薬より安全」とは限らないという点です。
現在の処方薬は、オレキシン受容体拮抗薬やメラトニン受容体作動薬など、安全性の高い薬が増えて安全な選択肢が増えています。
睡眠でお困りの状態が続いているのであれば、原因確認も含めて受診して処方薬を使用することをおすすめします。
生活リズムや寝る前の習慣を整えても、不眠が強く残る場合には、睡眠薬を使うことがあります。
睡眠薬は「一度飲んだら終わり」「必ず依存する」という薬ではありません。
強い不眠が続くと、日中の集中力低下、仕事のミス、気分の落ち込み、生活習慣病の悪化などにつながることがあります。そのため、必要な時期に適切に使うことは合理的な治療です。
一方で、睡眠薬は漫然と長く続けるものではありません。
現在の考え方では、まず生活習慣や睡眠に対する考え方を整えたうえで、必要な場合に、できるだけ安全性に配慮した薬を、少量から、必要最小限で使います。
近年、不眠症治療で使われることが増えているのが、オレキシン受容体拮抗薬です。
オレキシンは、脳を覚醒させる方向に働く物質です。オレキシン受容体拮抗薬は、この覚醒の仕組みを抑えることで眠りやすくする薬です。
従来のベンゾジアゼピン系睡眠薬は脳を眠らせる(鎮静)作用であり、作用の仕方が異なります。オレキシン受容体拮抗薬の方が依存や筋弛緩作用によるふらつきが比較的少ないとされています。
代表的な薬には、次のようなものがあります。
これらの薬は同じ「オレキシン受容体拮抗薬」に分類されますが、薬の効き方、作用時間、翌朝への持ち越しやすさ、併用薬との注意点などはそれぞれ異なります。
ラメルテオン(ロゼレム)は、メラトニン受容体に働く薬です。
メラトニンは体内時計や睡眠リズムに関係するホルモンです。ラメルテオンは、強く眠らせるというより、睡眠リズムを整える方向に働く薬です。効果の出方は比較的穏やかで、入眠困難や睡眠リズムの乱れが関係している場合に選択肢になります。
一方で、「飲んだその日から強く眠れる薬」を期待している方には、効果が弱く感じられることもあります。
以前から使われてきた睡眠薬に、ベンゾジアゼピン系睡眠薬や、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬があります。
これらは効果を実感しやすい一方で、注意点もあります。
特に高齢の方では、転倒や骨折につながることがあるため、慎重に使う必要があります。すでに長く飲んでいる場合も、自己判断で急にやめるのではなく、医師と相談しながら段階的に見直すことが大切です。
不眠の背景に、強い緊張、不安、気分の落ち込み、更年期症状、体のほてり、胃腸症状などがある場合には、漢方薬や抗うつ薬などを検討することもあります。
ただし、これらも「睡眠薬ではないから安全」と単純に考えるべきではありません。
眠気、ふらつき、他の薬との飲み合わせなどに注意が必要です。
睡眠薬を選ぶときに大切なのは、「強い薬か弱い薬か」だけではありません。
たとえば、寝つきが悪い人と、夜中に何度も目が覚める人では、向いている薬が違うことがあります。
翌朝に車を運転する方、夜間にトイレで起きる高齢の方、複数の薬を飲んでいる方では、安全性の考え方も変わります。
当院では、薬を使う場合も、次の点を確認しながら選びます。
新しい睡眠薬は選択肢を広げてくれますが、薬だけで不眠症を治すわけではありません。
睡眠薬を使う場合も、生活リズム、光、昼寝、カフェイン、飲酒、寝床での過ごし方を整えることが土台になります。
すでに睡眠薬を飲んでいる方の中には、「できれば減らしたい」「いつまで飲み続けるのか不安」という方も多いと思います。
この不安は自然です。特に長期間飲んでいる場合、「やめたら眠れなくなるのではないか」という心配が強くなります。
ただし、自己判断で急に中止するのはおすすめしません。薬の種類によっては、急にやめることで反跳性不眠、強い不安、焦燥感、動悸などが出ることがあります。
特にベンゾジアゼピン系薬剤では、急な中止による離脱症状に注意が必要です。
睡眠薬を減らすときは、次のような流れで考えます。
睡眠薬を減らすには、「薬を減らす努力」だけでなく、「薬を減らしても眠れる土台」を作ることが必要です。
生活リズム、日中活動、光、昼寝、飲酒、カフェイン、不安への対処を整えずに薬だけを減らすと、失敗しやすくなります。
当院では、睡眠薬だけでなく、他の内服薬も含めて全体を確認します。
特に高齢の方では、睡眠薬、抗不安薬、痛み止め、頻尿の薬、血圧の薬などが複数重なり、眠気やふらつき、転倒リスクにつながっていることがあります。
薬が多すぎて心配な方は、ポリファーマシーの記事もご参照ください。
高齢の方の不眠では、「若いころと同じように長く眠れない」こと自体が問題とは限りません。
加齢により、睡眠時間は短くなり、眠りは浅くなりやすくなります。
昼間の活動量が少ない、昼寝が長い、夜間頻尿がある、痛みやかゆみがある、認知症やうつ病が隠れている、といった要因も関係します。
そのため、高齢の方に睡眠薬を増やしていく前に、まず原因を整理することが大切です。
従来型の睡眠薬や抗不安薬は、高齢の方では転倒、骨折、もうろう、せん妄、認知機能への影響、依存などのリスクが高くなりやすいとされています。
もちろん、必要な場合に短期的に使うことはありますが、「眠れないから薬を増やす」という単純な対応は避けるべきです。
家族から見ると、「夜眠れないと言うので薬を増やしてもらったが、昼間にぼんやりして転びそうで心配」という状況もあります。
この場合、睡眠薬だけでなく、昼間の活動、光を浴びる時間、昼寝、トイレの回数、痛み、認知機能、介護環境まで含めて見直す必要があります。
当院では、外来診療だけでなく在宅医療の視点も踏まえ、生活全体を確認しながら薬の調整を考えます。高齢の方の不眠は、単に「眠らせる」ことではなく、安全に日中を過ごせる状態を目指すことが重要です。
当院では、不眠症に対して、生活の見直しと必要に応じた薬物療法を組み合わせて診療します。
診察では、まず次のような点を確認します。
いびきや無呼吸が疑われる場合は、睡眠時無呼吸症候群の検査を検討します。
背景にうつ病、不安症、甲状腺疾患、痛み、頻尿、更年期症状、薬の副作用などが隠れていることもあるため、必要に応じて内科的な確認も行います。
働く世代では、長時間労働、交代勤務、職場ストレス、在宅勤務と生活リズムの乱れが不眠に関係していることがあります。当院では、産業医としての経験も踏まえ、仕事と睡眠の関係も確認します。
受診の流れは、予約、問診、診察、生活指導、必要時の処方、フォローという形です。
睡眠薬を希望される場合でも、薬だけを出して終わりではなく、どのくらいの期間使うのか、どのように見直すのかを一緒に考えます。
眠れない状態が続いている方、睡眠薬を続けていて不安な方、家族の睡眠薬が増えて心配な方は、一度ご相談ください。
おすすめしません。アルコールは一時的に寝つきをよくするように感じることがありますが、睡眠の質を下げ、中途覚醒を増やすことがあります。量が増えると依存や肝臓への影響も問題になります。
すべての睡眠薬で必ずやめられなくなるわけではありません。ただし、薬の種類や使い方によっては依存や中止時の不眠が問題になることがあります。最初から、必要最小限で使い、定期的に見直すことが大切です。
2週間以上眠れない状態が続く、日中の眠気や集中力低下で生活に支障がある、市販薬や寝酒に頼っている、すでに睡眠薬を飲んでいて不安がある場合は相談してよい状態です。慢性不眠症は、週3日以上の不眠と日中の不調が3か月以上続く場合に考えますが、そこまで待つ必要はありません。
まずは内科で相談できます。いびきや無呼吸が疑われる場合は睡眠時無呼吸症候群の検査、強い不安や気分の落ち込みが中心の場合は精神科・心療内科との連携が必要になることもあります。
相談できます。仕事量、勤務時間、交代勤務、職場ストレス、通勤時間などは睡眠に大きく影響します。必要に応じて、生活リズムの調整や受診先の検討、職場要因の整理も行います。
![]() |
森田 知宏(もりた・ともひろ)/ 西新井内科クリニック 院長 医師・医学博士 東京大学医学部卒業。一般内科・訪問診療を担当。最新のエビデンス(科学的根拠)にもとづく診療を心がけています。 ▶ 院長の経歴・研究業績を見る |
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診療判断に代わるものではありません。気になる症状や検査結果がある場合は受診をご検討ください。
TOP