HPVワクチンについて ― 女の子の子宮頸がんを防ぐために
HPVワクチンについて ― 女の子の子宮頸がんを防ぐために
「HPVワクチンって、受けたほうがいいの?」「昔、副反応が心配というニュースを見た記憶がある」「無料で受けられるうちにと言われたけれど、いつ受ければいい?」――娘さんの予防接種を考えるとき、こうした疑問をお持ちの保護者の方は少なくありません。
この記事では、(1)子宮頸がんとHPVはどんな病気・ウイルスか、(2)ワクチンにどれくらいの効果があるのか(最新の研究を含めて)、(3)足立区の女の子の接種状況、(4)足立区での受け方(対象・費用・スケジュール)と副反応、を順にご説明します。
子宮頸がん(しきゅうけいがん)は、子宮の入口部分(頸部)にできるがんです。日本では年間およそ1.1万人が診断され、約2,900人が亡くなっています(国立がん研究センター「がん統計」)。とくに20歳代から30歳代の若い世代で増えているのが特徴で、妊娠・出産の時期と重なることから、深刻な影響をおよぼすがんです。
原因のほとんどは、HPV(ヒトパピローマウイルス)の持続的な感染です。HPVは性的な接触でうつるありふれたウイルスで、多くの人が一生に一度は感染するとされ、その大半は自覚症状のないまま免疫のはたらきで自然に排除されます。しかし一部でウイルスを排除できずに感染が続くと、前がん病変を経て子宮頸がんへと進むことがあります。子宮頸がんの約7割は、HPVのなかでも16型・18型によるものです。
以前は「前がん病変(がんになる前の段階)を減らす」ところまでが確認された効果でした。しかし近年は、実際に子宮頸がんそのもの、さらには死亡までも減るというデータが各国から報告されています。代表的な研究をご紹介します。
スウェーデン(167万人の追跡)――10〜30歳の女性約167万人を追跡した研究で、17歳になる前に接種した人は、接種していない人に比べて子宮頸がんのリスクが約88%低いという結果でした(Lei ら、2020年)。
イギリス(罹患の減少)――全国接種プログラムを分析した研究で、12〜13歳で接種を受けた世代では子宮頸がんが約87%、前がん病変(CIN3)が約97%減少しました(Falcaro ら、2021年)。
イギリス(死亡の減少・2026年の最新報告)――12〜13歳で接種した世代(接種率およそ9割)の20〜24歳女性では、2020〜2024年に子宮頸がんによる死亡が1人も起きませんでした(接種がなければ約23人の死亡が見込まれていました)。プログラム全体では、2024年末までにおよそ200人の死亡を防いだと推計されています(Sasieni・Falcaro、2026年)。
デンマーク――16歳以下で接種した人の子宮頸がんリスクは約86%低い、という結果でした(Kjaer ら、2021年)。
これらの研究に共通するのは、「早い年齢での接種ほど効果が高い」という点です。まだHPVに感染していない、性交渉を経験する前(12〜13歳ごろ)に接種することで、最も高い予防効果が期待できます。足立区の定期接種の対象が「小6〜高1」に設定されているのは、まさにこの適齢期にあたるためです。
なお、接種プログラムの導入後は、接種していない人も含めた集団全体でHPV感染や尖圭(せんけい)コンジローマが大きく減ることも、多数の国のデータをまとめた解析で示されています(Drolet ら、2019年)。
HPVワクチンには、2013年に接種後の症状が報告されたことを受けて、国が「積極的な接種のおすすめ」をいったん差し控えた経緯があります。ニュースで記憶に残っている方も多いと思います。
その後、国内外の調査で安全性についての特段の懸念は認められず、接種による有効性が副反応のリスクを明らかに上回ると確認されたため、2022年(令和4年)4月に積極的な勧奨が再開されました。
国内の代表的な調査として、名古屋市が約7万人の女性に行った大規模調査(約3万人が回答)があります。この調査では、接種と、報告されていた24種類の症状との間に、因果関係を示す結果は認められませんでした(Suzuki・Hosono、2018年)。
副反応の頻度について、足立区・厚生労働省の資料では、接種後に生じた症状の報告は1万人あたり約10人、重い症状の報告は1万人あたり約6人とされています。多くは注射した部分の痛み・腫れ・赤みや発熱・頭痛などで、その大半は数日で治まります。
なお、接種後に痛みや不安から一時的に失神すること(心因性反応)があります。転倒を防ぐため、接種後は30分ほど院内で安静にしてお過ごしください。
当院では、効果と副反応の両方をご説明したうえで、ご本人・保護者の方に納得して判断していただくことを大切にしています。
ここで、当院院長が公的統計をもとに行った独自調査(東京23区の比較)をご紹介します。
足立区のワクチン接種率を23区で比べると、乳児期のワクチンはむしろ上位クラスでした(四種混合が2位、小児用肺炎球菌が4位など)。つまり、足立区は本来、ワクチン接種に熱心な地域だといえます。
ところが、HPVワクチンだけは23区で下から2番目(22位/23区)でした。この数字は2021年度のもので、積極的勧奨が再開(2022年4月)する前・キャッチアップ接種が始まる前の「出発点」にあたります。当時は全区とも低い水準でしたが、そのなかでも足立区はとくに低いという結果でした。
多くのワクチンで関心が高い足立区でHPVだけが遅れているのは、一般的なワクチン忌避ではなく、過去の勧奨中止の影響が残っているためと考えられます。安全性と効果が改めて確認された今、この「あと一歩」を進める意義は大きいと考えています。(調査の詳細:東京23区ワクチン接種率ランキング(Moritas))
足立区内に住民登録のある小学校6年生〜高校1年生相当の女子。接種期間は高校1年生相当の年度末(3月末)までで、無料です。
なお、かつて実施されていたキャッチアップ接種(1997年4月2日〜2010年4月1日生まれの女性が対象だった延長措置)は、2026年3月31日で終了しました。現在、公費で接種できるのは上記の定期接種の年齢の方です。
2026年(令和8年)4月1日以降、定期接種として使えるのはシルガード9(9価)のみとなりました。16型・18型に加え、31・33・45・52・58型など、より多くの型に対応します。
標準は合計3回です。ただし15歳の誕生日の前日までに1回目を接種した場合は、6か月以上あけて2回目を接種することで完了(合計2回)とできます。早めに始めるほど、通院回数が少なく済む場合があります。
接種当日に16歳未満の方は、原則として保護者の同伴が必要です(13歳以上16歳未満で保護者が同伴しない場合は、同意書が必要です)。
HPVワクチンは複数回の接種が必要で、それぞれに数か月の間隔をあけます。そのため、スケジュールを組みやすい夏休みは1回目を始めるのに適した時期です。混み合う前に、早めのご予約をおすすめします。
ご不明な点や接種のご相談は、どうぞお気軽に当院または足立区保健予防課(電話 03-3880-5094)へお問い合わせください。
いいえ。足立区では男の子も無料でHPVワクチンを接種できます(任意接種の費用助成)。詳しくは「HPVワクチンについて ― 男の子も接種を」をご覧ください。本ページは女の子(定期接種)向けの内容です。
そうとは限りません。年齢が上がるほど、また感染後は効果が下がる傾向はありますが、まだ感染していない型に対しては予防効果が期待できます。だからこそ、対象年齢のうちに早めに始めることをおすすめします。
いいえ。HPVワクチンは子宮頸がんを100%防ぐものではないため、大人になってからの子宮頸がん検診も引き続き大切です。ワクチンと検診の両方で守るとお考えください。
原則として同じ種類のワクチンで完了することがおすすめですが、2026年度以降に公費で接種できるのは9価のみです。途中の回から9価に変更して完了することも検討できますので、医師にご相談ください。
※本ページの制度内容は2026年7月時点の情報です。対象年齢・対象ワクチン・申請方法は変更される場合があるため、最新情報は足立区公式サイトでご確認ください。
当院では、HPVワクチン以外にもインフルエンザ・肺炎球菌・帯状疱疹など各種ワクチンに対応しています。詳しくは「当院の予防接種」をご覧ください。
![]() |
森田 知宏(もりた・ともひろ)/ 西新井内科クリニック 院長 医師・医学博士 東京大学医学部卒業。一般内科・訪問診療を担当。最新のエビデンス(科学的根拠)にもとづく診療を心がけています。 ▶ 院長の経歴・研究業績を見る |
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診療判断に代わるものではありません。気になる症状や検査結果がある場合は受診をご検討ください。
TOP