寝室は真っ暗にした方がいい?|夜の光と糖尿病・心臓病の意外な関係
寝室は真っ暗にした方がいい?|夜の光と糖尿病・心臓病の意外な関係
寝るとき、部屋はどのくらい暗くしていますか?
真っ暗でないと眠れない方もいれば、豆電球をつけたまま眠る方、テレビをつけたまま寝落ちする方もいるでしょう。道路や看板の光がカーテン越しに入ってくる寝室もあります。
これまでは、夜の光というと「眠りが浅くなる」「寝つきが悪くなる」という話が中心でした。
しかし近年、少し違う研究が増えています。
夜間に光を浴びること自体が、体内時計や自律神経、糖代謝に影響し、長期的には糖尿病や心血管疾患と関係するのではないか、という研究です。
2024〜2025年には、英国のUK Biobankで実際に腕時計型センサーを装着して夜間の光曝露を測定した大規模研究が相次いで報告されました。
結果はかなり興味深いものです。
ただし、最初に結論を言えば、
「豆電球をつけて寝ると心筋梗塞になる」と証明されたわけではありません。
一方で、睡眠中の不要な明るい照明を避けることには、これまで考えられていた以上の意味があるかもしれません。
私たちの体には約24時間周期の「概日リズム(体内時計)」があります。
光は、この体内時計を調整するもっとも強力な刺激の一つです。
朝に明るい光を浴びると、体内時計は「朝が来た」と認識します。一方、夜に強い光を浴びると、本来は夜であるはずの時間に昼間のような信号が入ることになります。
その結果、
などに影響する可能性があります。
つまり、夜の光は単に「まぶしくて眠れない」という問題だけではありません。
2024年、The Lancet Regional Health – Europe に、UK Biobankの84,790人を対象とした研究が発表されました。
参加者は腕時計型の光センサーを1週間装着し、研究者は約1,300万時間分の光曝露データを解析しました。
その後、平均約8年間追跡したところ、夜間の光曝露が少ない人と比較して、夜間の光曝露が多い人ほど2型糖尿病を発症するリスクが段階的に高くなっていました。
もっとも夜間光曝露が多い上位10%では、
2型糖尿病発症リスクが約53%高い
という結果でした。
年齢、性別、運動、喫煙、飲酒、社会経済状況などを調整しても関連は残り、糖尿病の遺伝的リスクとは独立していました。[1]
もちろん、これは観察研究です。
夜に明るい環境で過ごす人には、夜更かし、夜間の食事、交代勤務など、糖尿病リスクに影響する別の生活習慣がある可能性があります。
それでも、「自宅周辺の明るさ」ではなく、本人が実際に浴びた光をセンサーで測ったという点は、この研究の重要な特徴です。
さらに2025年、同じ研究グループから JAMA Network Open に心血管疾患についての解析が発表されました。
対象は88,905人。こちらも腕時計型センサーで約1,300万時間の光曝露を記録し、その後最大約9.5年間の心血管疾患発症を追跡しています。
夜間光曝露が少ない人と比べ、もっとも明るい夜を過ごしていた上位10%では、
という関連がみられました。
身体活動、喫煙、飲酒、食生活、睡眠時間、社会経済状況、遺伝的リスクなどを調整しても関連は残りました。[2]
かなり目を引く数字です。
ただし、こちらもやはり「夜の光を減らせば心筋梗塞が減る」と証明した介入研究ではありません。
観察研究では、測定できない生活習慣や健康状態の違いが残る可能性があります。
このテーマが面白いのは、疫学研究だけではなく、人間を使った実験でも生理学的変化が確認されていることです。
2022年、Northwestern Universityの研究グループは健康な若年成人20人を対象に、睡眠中の光の影響を実験しました。
一方の条件では非常に暗い環境(3 lux未満)で眠り、もう一方では100 lux程度の室内照明をつけた状態で眠りました。
たった一晩の違いですが、明るい環境で眠った場合には、
していました。[3]
つまり、夜間の光が自律神経を刺激し、翌朝の糖代謝にまで影響する可能性があります。
ただし、この研究は20人という非常に小さな実験です。
また100 luxは「薄暗い豆電球」ではなく、寝室としてはかなり明るい条件です。
したがって、これを根拠に「少しでも光があると糖尿病になる」と考えるのは行き過ぎです。
2019年には、米国の35〜74歳の女性43,722人を対象とした研究も報告されています。
睡眠中の人工光について、
に分けて比較しました。
その結果、特に部屋の照明やテレビをつけたまま眠る人では、その後の体重増加や肥満が多いという関連がみられました。
照明やテレビをつけた状態で寝ていた女性では、光なしの女性と比べて、新たに肥満になるリスクが約33%高いという結果でした。[4]
ただし、これは光曝露を自己申告で評価した観察研究です。
テレビをつけたまま眠る人では、睡眠習慣や生活習慣そのものが異なる可能性もあり、光だけの影響とは断定できません。
夜の光の話になると、よく「ブルーライト」という言葉が出てきます。
確かに、人間の体内時計に関係する光受容系は短波長の光に比較的敏感で、青色成分を多く含む光は概日リズムへの影響が強くなりやすいことが知られています。
しかし、
夜の光=ブルーライトだけの問題
と考えるのは正確ではありません。
体への影響は、
などによって変わります。
「ブルーライトカットさえすれば、明るい部屋で寝ても問題ない」ということではありません。
また、スマートフォンを寝る前に見る問題と、睡眠中ずっと光を浴び続ける問題も完全に同じではありません。
今回紹介している大規模研究は、夜間全体の光曝露を評価したものです。
現時点では、
「何lux以下なら安全」という医学的な基準は確立していません。
また、真っ暗な寝室に変更した人で糖尿病や心筋梗塞が減るかを調べた大規模ランダム化比較試験もありません。
そのため、「完全な暗闇で寝なければ健康を害する」とまで言う根拠はありません。
一方、現在までの研究を考えると、
睡眠中に必要のない強い光を浴び続ける理由もありません。
実生活では、
くらいが現実的です。
特に高齢者では、夜間の転倒を防ぐことの方が重要な場合があります。
健康のために真っ暗にした結果、夜中に転倒するのでは本末転倒です。
常夜灯が必要なら、足元を照らす程度の弱い光を使用するという考え方でよいでしょう。
光の環境を整えても眠れない夜が続くときは、「不眠症の治し方 ― 睡眠薬に頼る前にできること」で、受診の目安と、睡眠薬を使う前にできることをまとめています。
体内時計を整えるという観点では、夜間の光を減らすことだけを考えるのも片手落ちです。
人間の体内時計は、昼と夜の明暗差によって時刻を認識しています。
そのため、
という「明るい昼、暗い夜」を作ることが、生理学的には自然です。
これまでの睡眠衛生では「寝る前にスマートフォンを見ない」といった話が強調されがちでした。
しかし最近の研究を見ると、もっと大きな視点で、
24時間を通じて、いつ光を浴び、いつ暗くするか
を考えることが重要なのかもしれません。
豆電球そのものが病気を起こすと示した研究はありません。実験で心拍数やインスリン抵抗性の変化がみられたのは100ルクス程度の室内照明で、豆電球よりかなり明るい条件です。
ただ、必要がないのであれば暗くしておくほうが体内時計には自然です。夜中にトイレへ行く方や、暗いと不安で眠れない方は、足元を照らす程度の弱い光にとどめておく、という考え方でよいでしょう。とくに高齢の方では、転倒を防ぐことのほうが優先されます。
外の光を減らす手段としては合理的です。外灯や看板の光が寝室に強く入る場合、カーテンを工夫する、遮光が難しければアイマスクを使う、といった方法があります。
ただし、遮光カーテンやアイマスクを使った人で糖尿病や心筋梗塞が減った、という研究があるわけではありません。あくまで「睡眠中の不要な光を減らす」ための手段とお考えください。
米国で35〜74歳の女性43,722人を追跡した研究では、部屋の照明やテレビをつけたまま眠っていた方は、光のない環境で眠っていた方に比べ、新たに肥満になるリスクが約33%高いという関連が報告されています。
ただし、これは光の当たり方をご本人の申告で評価した観察研究です。テレビをつけたまま眠る方では、就寝時刻や食事の時間帯なども違っている可能性があり、光だけの影響とは言い切れません。それでも、眠ってしまうならテレビは消しておくほうが理にかなっています。
「ブルーライトさえ避ければよい」とは言えません。
体内時計への影響は、光の強さ、波長、浴びる時刻、浴びる時間、日中にどれくらい光を浴びていたかによって変わります。青色成分を減らしても、明るい部屋で眠っていれば光を浴びていることに変わりはありません。また、寝る前にスマートフォンを見る問題と、睡眠中ずっと光を浴び続ける問題は別のものです。
「何ルクス以上」という決まった基準はありません。
体内時計は昼と夜の明暗差で時刻を認識しているため、朝起きたらカーテンを開ける、日中はある程度明るい環境で過ごす、というくらいで十分です。夜を暗くすることだけを考えるよりも、「明るい昼、暗い夜」を1日の中で作ることをおすすめします。
仕事の都合で夜間の光を避けられない方は少なくありません。
今回ご紹介した研究は交代勤務の方を主な対象としたものではなく、夜勤中にどうすればよいかを直接示したデータではありません。まずは睡眠時間そのものを確保すること、帰宅後に眠る時間帯をできるだけ暗くすることが現実的です。日中の強い眠気や不眠が続く場合は、勤務形態も含めて一度ご相談ください。
近年の研究では、夜間の光曝露が多い人ほど、
などが多いことが報告されています。
さらに小規模な実験では、一晩の室内照明でも心拍数やインスリン感受性に変化が生じることが示されています。
一方で、寝室を暗くすればこれらの病気を予防できることが証明されたわけではありません。
そのため、現時点での妥当な結論は、
「完全な暗闇にこだわる必要はないが、睡眠中の不要な明るい光は避けておくのが合理的」
という程度でしょう。
そして睡眠を整えるには、夜の暗さだけでなく、睡眠時間、睡眠の規則性、朝の光、日中の活動などを合わせて考える必要があります。
睡眠の規則性については「睡眠時間より「規則正しさ」が大切?」、平日と休日の睡眠のずれについては「休日の寝だめは体に悪い?」もあわせてご覧ください。
いびきや無呼吸、日中の強い眠気、不眠などが続く場合には、寝室環境だけの問題ではなく、睡眠障害が隠れている可能性があります。
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森田 知宏(もりた・ともひろ)/ 西新井内科クリニック 院長 医師・医学博士 東京大学医学部卒業。一般内科・訪問診療を担当。最新のエビデンス(科学的根拠)にもとづく診療を心がけています。 ▶ 院長の経歴・研究業績を見る |
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診療判断に代わるものではありません。気になる症状がある場合は受診をご検討ください。
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