休日の寝だめは体に悪い?|ソーシャルジェットラグと肥満・心血管疾患の関係
休日の寝だめは体に悪い?|ソーシャルジェットラグと肥満・心血管疾患の関係
平日は仕事のために朝7時に起きる。でも休日は夜更かしして、10時、11時まで寝ている。
珍しい生活ではありません。
平日に足りなかった睡眠を休日に取り戻そうとするのは、ある意味では自然な行動です。
一方、睡眠医学では、平日と休日で睡眠のタイミングが大きくずれる状態を「ソーシャルジェットラグ(social jetlag)」と呼びます。
これは海外旅行の時差ぼけ(jet lag)に似ています。
飛行機に乗っていなくても、平日は仕事や学校の時間に合わせて生活し、休日になると本来の体内時計に近い時間まで眠る。その結果、毎週のように小さな時差ぼけを繰り返しているのではないか、という考え方です。
近年、このソーシャルジェットラグと肥満、糖代謝、心血管疾患などとの関連が数多く報告されています。
ただし、最初に大事なことをお伝えしておきます。
「休日に長く寝ること=体に悪い」という単純な話ではありません。
むしろ、平日に睡眠不足がある場合には、休日に睡眠を補うことが有益な可能性もあります。
この記事では、「寝だめ」と「ソーシャルジェットラグ」を分けて考えながら、現在分かっていることを整理します。
ソーシャルジェットラグは一般に、仕事・学校がある日と休日の「睡眠中央時刻」の差で評価します。
たとえば、
この場合、睡眠中央時刻に3時間の差があるため、ソーシャルジェットラグは約3時間となります。
単に「休日に2時間長く寝た」という意味ではありません。
重要なのは、睡眠時間ではなく、睡眠する時刻そのものがずれていることです。
この概念は、ドイツの時間生物学者Till Roennebergらによって広く知られるようになりました。
2012年に発表された大規模疫学研究では、ソーシャルジェットラグが大きい人ほどBMIが高いことが報告され、「社会の時計と体内時計のずれ」が肥満に関係する可能性が注目されました。[1]
その後、多数の研究が行われています。
2024年の Obesity Reviews に掲載された系統的レビュー・メタ解析では、43研究、計23万人以上が検討されました。
その結果、ソーシャルジェットラグが大きい人では、
が高い傾向が確認されました。[2]
ただし、関連の強さはそれほど大きくなく、研究間のばらつきもかなりあります。
つまり、「週末に遅く起きるから太る」と断定できる結果ではありません。
夜型の人では、食事時刻が遅い、夜間の摂取カロリーが多い、運動量が少ないなど、別の生活習慣が同時に存在する可能性もあります。
日本人を対象とした研究もあります。
2018年に発表された日本人労働者1,164人の研究では、ソーシャルジェットラグが1時間未満の人と比べ、2時間以上ある人ではメタボリックシンドロームを有するオッズが約1.9倍でした。
また、腹囲が大きい人も多いという結果でした。[3]
さらに系統的レビュー・メタ解析では、質の比較的高い研究をまとめると、ソーシャルジェットラグがある人は、
という関連が報告されています。[4]
一方で、糖尿病そのものやメタボリックシンドロームそのものとの関連は一貫しておらず、研究の多くが横断研究でした。
したがって、「ソーシャルジェットラグを減らせば糖尿病を予防できる」と証明されたわけではありません。
さらに2026年には、UK Biobankの51,562人を対象として、腕時計型の加速度計から実際の睡眠時刻を測定した前向き研究が報告されています。
この研究では、平日と休日の睡眠中央時刻の差が2時間以上ある人は、その後の心血管疾患発症リスクが高くなっていました。
ソーシャルジェットラグが2時間以上の人では、心筋梗塞、虚血性心疾患、心不全、脳卒中、心房細動を合わせた心血管疾患のリスクが約30%高いという結果です。
睡眠時間や従来の心血管リスク因子、さらには遺伝的な心疾患リスクを調整しても関連は残りました。[5]
興味深い結果ですが、これも観察研究です。
ソーシャルジェットラグそのものが心血管疾患を引き起こしたことを証明しているわけではありません。
私たちの体には約24時間周期の「概日リズム(体内時計)」があります。
体内時計は睡眠だけではなく、
など、多くの機能を時間帯に応じて調整しています。
しかし社会生活では、必ずしも自分の体内時計に合わせて生活できません。
特に夜型の人が朝早く出勤・通学する場合、体はまだ眠りたい時間なのに、社会の都合で起きなければならないという状態になります。
平日は無理に早起きし、休日になると本来の睡眠リズムに戻る。
すると、
平日 → 体内時計に対して早い生活
休日 → 数時間遅い生活
月曜日 → また数時間時計を戻す
ということを毎週繰り返すことになります。
このような概日リズムと行動のずれが、糖代謝や食欲調節、炎症、自律神経などを介して健康に影響する可能性が考えられています。
ここが最も重要です。
平日に5時間しか寝ていない人が、休日も5時間睡眠を続ければよい、という話ではありません。
睡眠不足そのものにも、眠気、事故、肥満、高血圧、糖尿病、心血管疾患などとの関連があります。
2023年、National Sleep Foundationの専門家パネルは、睡眠時刻を規則的に保つことが健康や日中のパフォーマンスに重要であるとする一方、平日に十分眠れていない場合には、休日のcatch-up sleep(不足分を補う睡眠)が有益である可能性があるというコンセンサスを示しています。[6]
実際、休日の寝だめについては研究結果が一定していません。
2024年には、UK Biobankの約7万人を加速度計で評価した研究で、休日に長く眠る人とそうでない人の間に、その後の死亡や心血管疾患の明確な差は認められませんでした。[7]
つまり、
「寝だめをすれば健康になる」とも、「寝だめをすると健康を害する」とも、現時点では言い切れません。
ここは少し紛らわしいところです。
たとえば、平日:0時〜6時/休日:0時〜8時 なら、休日に2時間長く寝ていますが、睡眠の開始時刻は変わっていません。
これは主に「catch-up sleep」の問題です。
一方、平日:0時〜6時/休日:3時〜11時 では、睡眠時間を補っているだけでなく、睡眠そのものが3時間後ろにずれています。
こちらは大きなソーシャルジェットラグを伴います。
したがって、週末の睡眠を考えるときには、「何時間長く寝たか」だけでなく、「何時から何時まで寝たか」を見る必要があります。
現時点の研究から、「休日も平日と1分たりとも同じ時刻に起きるべき」という根拠はありません。
一方、毎週2〜3時間以上ずれる生活が続いている場合には、生活リズムを見直す価値があります。
実践しやすいのは、
といった方法です。
特に、休日になると昼近くまで眠ってしまう人では、単に「生活がだらしない」のではなく、平日に慢性的な睡眠不足を抱えている可能性があります。
その場合、休日の寝だめを禁止するより、平日の睡眠不足の原因を探す方が重要です。
毎日の寝起きの時刻をそろえることの意味については「睡眠時間より「規則正しさ」が大切?」、朝の光と夜の暗さについては「寝室は真っ暗にした方がいい?」もあわせてご覧ください。
リズムを整えても「そもそも寝つけない」「途中で目が覚める」という状態が続く場合は、「不眠症の治し方 ― 睡眠薬に頼る前にできること」もご覧ください。
平日と休日で睡眠時刻が大きくずれる人の中には、もともと強い夜型の体内時計を持つ人もいます。
特に、
という場合には、睡眠不足だけでなく、睡眠・覚醒相後退障害などの概日リズム睡眠・覚醒障害が関係していることもあります。
また、長時間寝ても日中の眠気が強い場合には、睡眠時無呼吸症候群など別の睡眠障害を考える必要があります。
仕事や学校がある日と、休日の「睡眠中央時刻」の差で計算します。睡眠中央時刻とは、寝ついた時刻と起きた時刻のちょうど真ん中です。
たとえば平日が0時〜6時なら中央時刻は3時、休日が2時〜10時なら6時ですので、差は約3時間となります。「休日に何時間長く寝たか」ではなく、「何時から何時まで寝たか」で見るのがポイントです。
「ここから危険」という医学的な基準はありません。
研究では2時間以上を一つの区切りとして比較していることが多く、日本人労働者の研究では2時間以上の方でメタボリックシンドロームを有するオッズが約1.9倍、UK Biobankの研究では心血管疾患のリスクが約30%高いという関連が報告されています。いずれも観察研究ですので、2時間を超えたら病気になるという意味ではありません。毎週2〜3時間以上ずれる生活が続いているなら見直す価値がある、という程度にお考えください。
一律にやめたほうがよい、とは言えません。
2023年のNational Sleep Foundationの専門家パネルは、平日に十分眠れていない場合には休日に不足分を補う睡眠が有益である可能性がある、としています。またUK Biobankの約7万人を加速度計で評価した研究では、休日に長く眠る方とそうでない方の間に、その後の死亡や心血管疾患の明らかな差は認められませんでした。
現時点では「寝だめをすれば健康になる」とも「寝だめをすると健康を害する」とも言い切れません。避けたいのは、睡眠時間を補うことよりも、睡眠の時間帯そのものが毎週大きくずれることのほうです。
そこまでは分かっていません。
23万人以上を含む系統的レビュー・メタ解析では、ソーシャルジェットラグが大きい方ほどBMIや腹囲が高い傾向が報告されていますが、関連の強さはそれほど大きくなく、研究間のばらつきもかなりあります。また、生活リズムを整える取り組みによって体重が減ることを証明した大規模な介入研究はありません。
夜型の方では食事の時刻が遅い、運動量が少ないなど別の生活習慣が重なっていることも多く、睡眠時刻だけの影響とは言えないのが現状です。
そうとは限りません。
休日に長く眠ってしまう方の多くは、平日に慢性的な睡眠不足を抱えています。また、もともと強い夜型の体内時計をお持ちの方もいます。夜になるほど目が冴える、早く布団に入っても眠れない、休日なら自然に眠って自然に起きられる、平日の朝だけ極端につらい――こうした状態が学生時代から続いている場合には、睡眠・覚醒相後退障害などの概日リズム睡眠・覚醒障害が関係していることもあります。
「意志が弱い」と片づけず、一度ご相談ください。
関係している可能性はあります。
休日に睡眠時刻が後ろにずれた状態から、月曜の朝に数時間ぶん時計を戻すことになるため、体内時計と実際の生活時間にずれが生じます。ただし、月曜の朝のつらさには睡眠不足や仕事のストレスなど別の要因も重なります。
十分な睡眠時間を確保しても強い眠気が続く場合や、いびき・無呼吸を指摘されている場合には、睡眠時無呼吸症候群など別の睡眠障害がないかを確認します。
ソーシャルジェットラグとは、平日と休日で睡眠のタイミングがずれる状態です。
現在までの研究では、大きなソーシャルジェットラグは、
などと関連することが報告されています。
ただし、その多くは観察研究であり、ソーシャルジェットラグを減らすことで病気が予防できることを証明した大規模介入研究はまだありません。
そして、休日に長く眠る「寝だめ」と、睡眠時刻そのものがずれる「ソーシャルジェットラグ」は同じものではありません。
平日に睡眠不足があるなら、休日に睡眠を補うことまで無理に避ける必要はありません。
むしろ目標は、
「休日に寝ないこと」ではなく、平日から十分に眠り、平日と休日の睡眠リズムをできるだけ大きくずらさないこと
と考えるのが妥当でしょう。
睡眠時間を確保しているのに強い眠気が続く、極端な夜型で社会生活に支障がある、いびきや無呼吸を指摘されるといった場合には、睡眠障害が隠れていないか確認することも大切です。
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森田 知宏(もりた・ともひろ)/ 西新井内科クリニック 院長 医師・医学博士 東京大学医学部卒業。一般内科・訪問診療を担当。最新のエビデンス(科学的根拠)にもとづく診療を心がけています。 ▶ 院長の経歴・研究業績を見る |
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診療判断に代わるものではありません。気になる症状がある場合は受診をご検討ください。
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