睡眠時間より「規則正しさ」が大切?|寝起きの規則性と死亡・心血管リスクの関係
睡眠時間より「規則正しさ」が大切?|寝起きの規則性と死亡・心血管リスクの関係
「健康のためには7時間くらい眠ったほうがよい」「睡眠不足は体に悪い」。これはよく知られています。
一方、最近の睡眠研究では、何時間眠るかだけでなく、「毎日どれくらい同じ時間に寝起きしているか」も重要なのではないかと注目されています。
たとえば、平日は0時に寝て7時に起きるのに、週末は3時に寝て11時に起きる。平均するとそれなりに眠れていても、体内時計から見ると毎週のように時差ぼけを繰り返していることになります。
近年の大規模研究では、このような「睡眠の不規則さ」が、心血管疾患や死亡リスクと関連することが報告されています。
ただし、ここには重要な注意点があります。
「規則正しく眠れば長生きできる」と証明されたわけではありません。
この記事では、睡眠の規則性について、現在どこまで分かっているのか、どこから先はまだ仮説なのかを整理します。
睡眠の規則性には、いくつかの測り方があります。
もっとも単純なのは、
を見る方法です。
研究では、腕時計型の活動量計(アクチグラフィ)を数日間装着し、睡眠と覚醒のパターンを客観的に記録する方法も使われます。
近年よく用いられる指標が Sleep Regularity Index(SRI) です。
これは簡単にいえば、「昨日のこの時間に眠っていた人が、今日の同じ時間にも眠っているか」のように、24時間ごとの睡眠・覚醒パターンがどれくらい似ているかを数値化したものです。
つまり、単に「平均7時間寝ています」という情報では見えない、日ごとのばらつきを測っています。
この分野で注目された研究の一つが、英国の大規模研究UK Biobankを用いた解析です。
Windredらは、60,977人について、腕に装着した加速度計から得られた1,000万時間以上のデータを使って睡眠の規則性を評価しました。参加者の平均年齢は約63歳で、その後平均約6.3年間追跡されています。
結果として、睡眠がもっとも不規則だったグループと比較すると、より規則的だったグループでは、
という関連がみられました。
さらに研究者らが睡眠時間と睡眠の規則性を比較したところ、死亡リスクとの関連は、平均睡眠時間より睡眠の規則性のほうが強いという結果でした。[1]
かなり興味深い結果です。
ただし、この研究は観察研究です。「睡眠を規則正しくしたから死亡が減った」と証明した研究ではありません。
睡眠が規則的な人は、食事、運動、仕事、飲酒など他の生活習慣も規則的である可能性があります。研究では多くの因子を統計的に調整していますが、こうした影響を完全に取り除くことはできません。
死亡だけではありません。
米国のMESA(Multi-Ethnic Study of Atherosclerosis)では、心血管疾患のなかった1,992人に7日間のアクチグラフィを行い、その後中央値4.9年間追跡しました。
睡眠時間の日ごとのばらつきが1時間以内だった人と比較すると、2時間を超えて変動していた人では、心筋梗塞や脳卒中などの心血管イベントのリスクが約2.1倍でした。
寝つく時刻についても同様で、日ごとの変動が30分以内だった人と比べ、90分を超えて変動していた人では心血管イベントが約2.1倍でした。
平均睡眠時間などを調整しても、この関連は残りました。[2]
さらに2025年に発表された系統的レビューでは、59の研究を検討し、睡眠時刻の不規則さは、肥満、インスリン抵抗性、高血圧、心血管イベント、抑うつ・不安などと一貫して関連する傾向があるとまとめられています。[3]
つまり、睡眠の規則性は単なる「几帳面な生活習慣」ではなく、睡眠健康を構成する独立した要素として考えられるようになってきています。
人の体には約24時間周期の「概日リズム(体内時計)」があります。
睡眠だけでなく、
など、多くの生理機能が時間帯によって変化します。
寝る時刻や起きる時刻が毎日大きく変わると、光を浴びる時刻、食事の時刻、活動する時刻もずれやすくなります。
その結果、体内時計と実際の生活時間との間にずれが生じ、
概日リズムの乱れ → 自律神経や代謝、炎症などへの影響
という経路で長期的な健康に影響する可能性が考えられています。
ただし、このメカニズムが人間の心筋梗塞や死亡増加をどの程度説明するのかは、まだ十分に解明されていません。
なお、体内時計を合わせるもっとも強い刺激は光です。夜間の光と代謝の関係については「寝室は真っ暗にした方がいい?」で詳しく解説しています。
ここは誤解されやすいところです。
研究を見ると、「寝る時刻を必ず30分以内にそろえなければならない」「休日も平日と全く同じ時刻に起きなければならない」といった明確な基準が確立しているわけではありません。
2023年、National Sleep Foundationの専門家パネルは既存研究を系統的に検討し、毎日の就寝・起床時刻を規則的にすることは健康と日中のパフォーマンスに重要であるという点についてコンセンサスを示しました。
一方で、平日の睡眠が不足している場合には、休日に不足分を補う睡眠も健康上有用である可能性がある、としています。[4]
したがって、
「休日も絶対に同じ時間に起きるためなら、睡眠時間を削ってもよい」
という意味ではありません。
十分な睡眠時間と、できる範囲での規則性の両方が大切と考えるのが妥当です。
睡眠を整えたいとき、実践しやすいのは起床時刻を大きくずらさないことです。
起床後に光を浴びることは、体内時計を調整する重要な刺激になります。
たとえば、
といった考え方が現実的です。
不眠症では、長く布団に入って眠ろうとし続けることが、かえって不眠を悪化させる場合があります。睡眠を規則正しくすることと、「早く布団に入ればよい」ということは同じではありません。
不眠が続いている方は、不眠症の治し方もご覧ください。
これまで健康的な睡眠というと、「1日何時間寝ていますか?」という質問が中心でした。
しかし現在は、
を合わせて評価する多次元的な睡眠健康(multidimensional sleep health)という考え方が広がっています。
American Heart Associationも2025年のScientific Statementで、睡眠時間だけでなく「規則性」を睡眠健康の一つの独立した要素として取り上げています。[5]
睡眠の規則性と健康との関連については、かなり多くの研究がそろってきました。
一方で、現時点では、
「睡眠を規則正しくする介入を行えば、心筋梗塞や死亡が実際に減る」ことを示した大規模ランダム化比較試験はありません。
したがって、「睡眠時間より規則性のほうが絶対に重要」と結論づけるのはまだ早いでしょう。
それでも、十分な睡眠時間を確保したうえで、毎日の寝起きの時刻を大きく乱さないことは、現在の睡眠医学から見て合理的な習慣と考えられます。
現時点では、「就寝時刻を30分以内にそろえる」といった明確な基準は確立していません。
研究で使われているのは、日ごとのばらつきが大きい人と小さい人を比べるという方法で、「ここから先が危険」という線引きがあるわけではないのです。まずは、平日と休日で起床時刻が何時間ずれているかを確認するところから始めていただけます。
いいえ。規則性と睡眠時間は、どちらかを選ぶものではありません。
2023年のNational Sleep Foundationの専門家パネルは、就寝・起床時刻を規則的にすることが健康に重要だとする一方で、平日に十分眠れていない場合には休日に不足分を補う睡眠も有用である可能性がある、としています。「休日も同じ時刻に起きるために睡眠時間を削る」という意味ではありません。十分な睡眠時間を確保したうえで、できる範囲で規則性を保つとお考えください。
そこまでは言えません。
睡眠が規則的な方ほど死亡リスクが低いという関連は報告されていますが、これらはいずれも観察研究です。睡眠を規則正しくする取り組みによって実際に死亡や心筋梗塞が減ることを示した大規模なランダム化比較試験はまだありません。
また、睡眠が規則的な方は食事や運動、飲酒などの生活習慣も規則的である可能性があり、その影響を統計的に完全に取り除くことはできません。
毎週2〜3時間ずれる生活が続いているなら、一度見直す価値があります。
ただし、休日に昼近くまで眠ってしまうのは、そもそも平日に睡眠が足りていないサインであることが多いものです。その場合は休日の睡眠を削るより、平日の睡眠不足の原因を探すほうが先です。詳しくは「休日の寝だめは体に悪い?」もご覧ください。
研究で使われているのは、腕に装着して体の動きから睡眠・覚醒を推定する活動量計(アクチグラフィ)です。市販の機器やアプリが同じ精度で睡眠段階まで判定できるかは、機種によって異なります。
ただ、「何時ごろ寝て、何時ごろ起きたか」の記録という点では、日ごとのばらつきを振り返る手がかりになります。診察では細かいスコアよりも、寝起きの時刻とそのばらつきを伺いますので、記録があればお持ちください。
その必要はありません。
不眠症では、眠れないまま長く布団の中で過ごすことが、かえって不眠を悪化させる場合があります。睡眠を規則正しくすることと、「早く布団に入ればよい」ということは同じではありません。整えやすいのは就寝時刻より起床時刻のほうです。寝つけない状態が続いている方は、不眠症の治し方もご覧ください。
生活を整えても、
といった場合には、単なる生活リズムの問題とは限りません。
睡眠時無呼吸症候群、不眠症、睡眠不足症候群、概日リズム睡眠・覚醒障害などが隠れていることがあります。
当院では、睡眠の時間だけでなく、睡眠のパターンや日中の症状も確認しながら必要な検査・治療をご提案しています。
平日と休日で睡眠時刻が大きくずれている方は「休日の寝だめは体に悪い?」も参考になります。
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森田 知宏(もりた・ともひろ)/ 西新井内科クリニック 院長 医師・医学博士 東京大学医学部卒業。一般内科・訪問診療を担当。最新のエビデンス(科学的根拠)にもとづく診療を心がけています。 ▶ 院長の経歴・研究業績を見る |
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診療判断に代わるものではありません。気になる症状がある場合は受診をご検討ください。
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